久々の海外出張から帰宅すると、キッチンで見知らぬ人が花を生けていた。誰…。ここ私の家だよね?「あ、どうもー」。その人の大きな瞳が微笑んだ。夕飯の買い物から戻った母から状況が明かされる。この人は母の親友の妹さん。「レイコさんよ。パリから一時帰国していて、訳あって数日うちに泊まってもらうから…まーあ、きれいなお花」「居候が勝手に花なんて生けちゃってごめんなさい」「あ、娘のミクです」。そんな会話ではじまった。
翌朝、レイコさんはソファで新聞をぐわっと広げて熱心に読み込んでいた。彫りの深いエキゾチックな横顔に思わず「お顔が小さくて鼻が高くて、いいですねぇ」と、ふわっと感想を口にした。でもレイコさんはそっけない。「あそ」。あれ、変なこと言ったかな?褒め言葉なんだけど。自分なんて日本画で見かけるザ・平面顔だし羨ましい…。きまりが悪くなって逃げるように仕事に出かけた。その夜。夕食の後、お茶を淹れる私のそばにレイコさんが来た。「今朝はごめんね。私、愛想が悪いってよく怒られる」。いえそんな…と曖昧に笑っていると、こう続けた。実はね、15年前パリで暮らし始めた頃、私もフランスの女性に同じように言ったことがあったの。でもそれは東洋的な価値観であって、彼らの価値観では褒め言葉じゃなかった。「そうなんですか?」レイコさんは続けた。私、ずっと自分を他人と比べては落ち込んでばかりで。でもあちらでは人種も個性も色々で、違って当たり前じゃない?自分に自信をもつことが大前提の世界。生まれ持った外見も魂も含めて自分を愛さざるを得ない、その訓練の日々だった。やっと、愛せるようになったかな。ゆったりと喋っているレイコさんの横顔の、自然なつやと美しい陰影に惹きつけられる。「自分を受け入れるには、どうしたらいいですかね?」そうねえ…。気楽に歳をとっていくことかな。いろんな経験をしながら、人からどう見られたいかではなく、自分がどうありたいかを知るのは楽しいよ。なんてね!魅力的な眉をきゅっと上げて、その人は笑った。
次の日、私は会社帰りにベースメイクを新調した。鮮やかな赤いパッケージ。それは顔立ち、肌の質感、生まれ持った自分だけの良さを引き出してくれるメイクアップだという。化粧下地の、内から発光するようなつやにドキッとする。これまでとは違う。けど今はこれがいい。引き出すべき自分を愛していくよ。
4日目の早朝、いつものように新聞をぐわっと広げた後、レイコさんはパリへと帰っていった。いつも座っていたソファは主を失ったかのように静かだ。私はコーヒーを淹れながら、あの人間味溢れる横顔を想う。そしていつか胸を張ってパリに逢いに行く、私の横顔のことも。
資生堂の、新しいインウイ。唯一無二の自分美を引き出すメイクアップ。
フォトグラファー:上田義彦
コピーライター:国井美果
アートディレクター:高田大資
クリエイティブディレクター:山形季央
メイク:山田暢子
ヘア:シリロ千鶴
プロデューサー:綿引しな乃