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現代銀座考

現代銀座考 :XV 銀座三越の伊藤昊写真展

2020.12.01

写真/伊藤昊

文、イラスト/森岡督行

森岡書店代表の森岡督行さんが、銀座の過去、現在、そして未来をつなげる新しい物語です。
 時の人々が集い、数々のドラマが生まれた銀座には、今もその香りが漂っています。1964年頃に銀座を撮り続けていた写真家・伊藤昊さんの写真とともに、銀座の街を旅してみましょう。

 

 

現代銀座考 :XV 銀座三越の伊藤昊写真展

『現代銀座考』で写真を掲載している伊藤昊の写真展が、2020年11月22日(日)から12月8日(火)にかけて、銀座三越(*)本館7階「銀座シャンデリア スカイ」で開催されています。「銀座シャンデリア スカイ」は、銀座三越内に新設されたパブリックスペースで、大きな窓からは、銀座4丁目交差点をきれいに見渡すことができます。この角度からの眺望はこれまで見たことがありませんでした。本展が「銀座シャンデリア スカイ」のこけら落としとなりました。

 伊藤昊は、東京オリンピック開催に湧く1964年秋の銀座を撮影し、そのうち150枚ほどを現像しています。そのなかから、本展のメインビジュアルとして、上掲の写真を選びました。選択の決め手になったのは、以下の二つ理由です。
 
 ひとつ目は、なんといっても、銀座三越のエントランスで撮影された写真だからです。着飾った男女は、おそらく新婚の夫婦でしょう。男性は白手袋をしているのですが、当時、新婚旅行の際に、白手袋をする風習があったと聞きます。女性は、秋にしては毛皮のコートを着て、いかにも厚着です。もしかしたら、北海道など、すでに寒い地域から、新婚旅行とオリンピック観戦を兼ねて来たのかもしれません。男性の持つ四角いカバンと、女性が持つ網の手提げには、同じタグが付いています。飛行機で羽田空港に降りたち、モノレールに乗って浜松町駅を経て、いま銀座に到着したというルートが想像できます。女性の視線の先にあるのは三愛ドリームセンターでしょう。いくつもの未来が立ち現れたことへの驚きの表情のようです。1964年の銀座三越は、内にも外にも、希望や夢があふれていました。前途洋々の新婚旅行になったことでしょう。そういえば、11月22日はいい夫婦の日でもあります。

 二つ目は、実はこれは文筆家の大竹昭子さんが気づいた視点なのですが、通りを歩く女性と、銀座三越のなかから出てくる男性が、風呂敷で何かを包んで持ち歩いていることです。
 ここからは私の意見です。2020年11月22日現在、日本におけるコロナウイルス感染症は第3波をむかえ拡大しています。コロナ禍にはさまざま要因があるのでしょうが、人類による生態系の破壊が影響しているという意見を目にしたことがあります。いずれにしても、いまサステナブルな観点が求められているのは確かなことです。出来ることから無理なく取り組むとき、買い物袋を無くす、というのは比較的容易にできることのひとつです。風呂敷を持つ習慣が見直されてしかるべき時期にさしかかってきました。そんな観点からもこの写真を選びました。
 
 ぜひこの機会に「銀座シャンデリア スカイ」にお出かけください、素晴らしい銀座の眺望も待っています、と必ずしも大きな声で言えないのが、昨今のコロナ禍の現状でもあります。でもそこにも希望があるとするなら、この写真のなかにあった新しい未来とは方向性のちがう、また別の新しい未来が、すぐそこに待っているということではないでしょうか。

*三越/1673(延宝元)年に三井高利が越後屋を創業。その後店章の変化を繰り返しながら、1930年4月に銀座店開店。
銀座三越:中央区銀座4-6-16

クリエイターの紹介

伊藤 昊

写真家

いとう・こう 1943年大阪府生まれ。生後まもなく、両親と共に父親の実家のある宮城県涌谷町に疎開。6年生のときに、京都太秦の小学校に単身で転校。1955年に東京の明治学院中学校に入学。1961年に東京綜合写真専門学校に入学。1963年に卒業後、同校の教務部に就職。この頃に写真展を2度開催する。1968年に同校を退職し、フリーのカメラマンとなる。1978年に益子に移住し、塚本製陶所の研修生となる。1981年に築窯し陶芸家として独立。その後は晩年まで陶芸家として活動する。2015年に逝去。
5月5日に写真集『GINZA TOKYO 1964』が森岡書店より刊行された。
https://soken.moriokashoten.com/items/2dabee933141

森岡 督行

店主

森岡書店主。森岡書店代表。1974年山形県生まれ。著書に『荒野の古本屋』(晶文社)、『BOOKS ON JAPAN 1931-1972』(ビー・エヌ・エヌ新社)などがある。企画協力した展覧会に「そばにいる工芸」(資生堂ギャラリー)、「畏敬と工芸」(山形ビエンナーレ)などがある。近年は洋服などのプロデュースを手がけることも多い。株式会社森岡書店代表。『工芸青花』(新潮社)のウェブサイトにて「森岡書店日記」を連載中。

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