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「コロナ禍の孤独」を映像に―マーク・ジェイコブスの“A New York Story”

2021.06.18

文/呉 佳子

WITHコロナ生活も1年以上が過ぎた。日常の中のさまざまな制限を、まあしょうがないかと受け流す日々が続いている。“異常”に慣れてしまっている危うさを感じる今日この頃。だからこそ、現状を客観的に眺め、あらためて思いを巡らせるのに役立つショートムービーを紹介したい。
去年、世界中の都市で次々とロックダウンが始まり、日本も初の緊急事態宣言発令となったあの時の空気感、独特の雰囲気を24分間の映像にぎゅっと凝縮させた作品、“A New York Story”だ。

タイトルロールは、先日OVERCOATの記事でご紹介したグラフィック・デザイナーのピーター・マイルズが手がけている。"A New York Story" https://youtu.be/nlOYWThcPn0

これは、ファッションデザイナー、マーク・ジェイコブスが昨年10月にYouTubeで発表したもの。マークと言えば現代を生きる最も有名なファッションデザイナーの一人で、“時代を読み、次代を創る”能力に長けた人物として高く評価されている。このコロナ禍においてコレクションラインは休止中だが、若者向けの新ラインを立ち上げたり、様々なオンラインイベントにスピーカーとして登場したり、自ら実演するメイクアップチュートリアル動画を手掛けたり、と精力的に活動中だ。

Marc Jacobs 公式インスタグラムより。IGTVコンテンツも充実!@marcjacobs

動画の舞台はロックダウン中のニューヨーク、ソーホーのホテル、ザ・マーサー。マスクをしたマーク・ジェイコブスが愛犬とともに滞在客として現れる。実は、この動画、登場人物はいろいろいるのだが、ほとんど全員をマーク一人が演じる。ゲストとしての本人のほか、チェックインを受け付けるフロントスタッフのマーク、荷物を運ぶポーターのマーク、部屋に掃除機をかけるハウスキーパーのマーク、バスルームの照明を取り換えるエンジニアのマーク……。ほぼ全編を通じてとにかくマークしか登場しない。このシュールな演出が、世界が一気に閉ざされ、人との繋がりが断絶された、“コロナ禍の孤独感”をリアルに表しているのだ。

ホテルに到着したマークと愛犬。
出迎えるのはコンシェルジュに扮するマーク。
エンジニアを演じるのもマーク。

そもそも自宅の改装のため、パンデミック前からザ・マーサーに長期滞在をする予定だったマーク。ロックダウン開始となり、いつもの賑わいが突如消え去った街とホテルがインスピレーション源となった。部屋で所在なげにタバコをくゆらせる哀愁漂うシーンもあるが、マニキュアを塗ってみたり、メイクをしたり、アクセサリーを身につけたり。装うことで日常のバランスを取り戻そうとする姿に好感が持てる。マークの毎日の装いに欠かせないのは、ミキモトのパールネックレスと15センチはありそうな厚底ヒールのブーツ。マーク扮するさまざまなホテルスタッフももれなく首元にはパール、足元は厚底ブーツだ。

もくもくと携帯をチェックしたり、
ネイルをぬったり、
中庭で読書をしたり、
お風呂の泡に埋もれてみたり、
スウェットでくつろいだりと、マークの素顔が垣間見られる。
ホテル下のクラブへ着飾って行くシーンも。
愛犬と一緒のベッド・シーンも。寝る前にぼんやりテレビを眺める。
寝ぐせがついたままの、まさに寝起きなマーク。

90日後、チェックアウトの日には、ホテルスタッフやマークの夫など、ようやくマーク以外の人物が登場し、季節の移ろいとともに日常が少し色彩を帯びてくる。
ショートムービーはハッピーエンドで締めくくられるが、現実世界はどうか。ワクチンの広まりから、ようやく次なるフェーズが見え始めているものの、人々の不安感はまだ澱のように残っている。今の状況がどう転ぶか、誰も分からないなかで断言できるのは、マークによるこの作品が私たちが後世に伝えていくべき秀逸なものであること。このあと何年も先、今現在のことがすっかり思い出になってしまった時でも、この作品を見ることで、コロナ禍独特の心情をすぐに思い出すことができるはずだ。

NEWS
コロナ禍をきっかけに昨年4月からスタートしたソーシャル・キャンペーンのインスタグラムライブ「OPEN BOOK」が、このたびMarc Jacobs日本公式アカウントでもスタート! 詳しくはこちらから→@marcjacobsjapan

クリエイターの紹介

呉 佳子

ファッションディレクター

資生堂ファッションディレクター
ファッショントレンドの分析研究やトレンド予測を担当。毎季、コレクション取材で世界を飛び回る……だけならカッコいいのですが、家では2児の世話に髪を振り乱す毎日。

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