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Collection

2022.11.04

大野陽平を5年ぶりのショーに駆り立てたものとは? - YOHEI OHNO 2023 Spring Collection

文/呉 佳子(資生堂ファッションディレクター)

YOHEI OHNO 2023 Spring Collectionより

「自分の内なる“熱狂”を大事にしたい」。
ヨウヘイ オオノのデザイナー、大野陽平さんが5年ぶりにショーを決めた理由だ。

ブランドの立ち上げは2014年。その後すぐに東京ファッションアワードを受賞しランウェイショーを2シーズン行った。以来5年間、ショーの開催は控え、シーズン毎の新作は展示会で発表していた。その間は、“展示会での新作発表”→“バイヤーや顧客からのフィードバック”→“次のコレクションにフィードバックを生かす”、のサイクルを繰り返し、ビジネスとしての基盤作りに地道に注力する期間だったという。
「企業でいうマーケティングに近いことをやっていました。やればやるほど手応えはあるし、卸し先も広がった。ただ、近頃ふと、この先も同じテンションでやり続けるのはどうなのかなって思ったんです」
単なるニーズを受ける人になってしまうと危惧した。何か大切なものを失っていくのではないか。デザイナーになろうとモノづくりの道に足を踏み入れた頃、心の中に携えていたもの。大野さんはそれを「熱狂」と呼ぶ。
「このままいくと、自分の中の熱狂が思い出せなくなってしまうと思ったんです」

「たとえばYouTubeの世界って、視聴回数をどれだけ増やすかに尽きますよね。視聴回数が多ければ、おしなべて良しとされる。上品なものでも下品なものでも全てを同じ尺度で評価。収益化という観点一辺倒なのが気になるんです」
世の中にある多様なものが、単純な尺度で良い表現も顔をしかめたくなるものもすべて一様に評価される、皆が同じ感覚で同じように共有することに違和感をもった。
「たとえ誰からも気づかれなかったとしても、もっと熱狂的に打ち込みたい。自分だけの熱狂をもって生きている人っていいなって。あらためて自分の心に素直な創作がしたいと考えました」
熱狂。辞書で引くと「血を湧き立たせ、狂わんばかりに夢中になること」とでてくる。先人として大野さんが例に挙げたのは、死後、アウトサイダーアーティストの代表作家として評価されるようになったヘンリー・ダーガーや、フランスの郵便配達員で巨大な城塞を自力で建設したフェルディナン・シュヴァルだ。いずれも打算的な考えは一切なく、自分の中にある創作の喜びにただ忠実に、ひたすら創作に励んだ人物として知られる。
翻ってファッション業界の現状と照らすと、「(自分と同じくらいのキャリアの)他のデザイナーたちはスマートだなって思いますね。『このブランドと言えばこれ』というのをつくろうとしている。でも皆が皆、それをやる必要はない。自分としては、デザイナー自身の熱量が感じられるものをつくりたいと強く思うんです」

今季のコレクション制作にあたっては、いつものように何か一つのテーマを立てることは敢えてしなかったという。コレクションの着想源は伝統的な西洋の服やグーグルアース、昔のビジュアル系バンドの世紀末思想などジャンルも切り口もさまざまだ。
「こういうテーマでこういうものを表現しようというのは退屈に思えたんです。いろんな要素を雑多に寄せ集めた時に、一体最終的にどうなっていくんだろう?ということに興味がありました。過去の自分のデザインアプローチを無理に絞り込みまとめようとするのではなく、同時に進めていく。その先に新しいスタイルが見いだせるのでは」
ショーを行ったのは、上野の国立科学博物館、古代の恐竜の化石が展示される空間だ。ランウェイの両脇に配された観客は全員立ち見。ひしめくようにランウェイを取り囲み、身を乗り出しながらモデルを見守るライブ感あふれる演出。コレクションは、クラシックな西洋風フォルムがある一方で、宇宙的なモチーフもある。素材もごく一般的なものからメタリックまで多様だ。まとまりがないと言えばそう。しかし、敢えての不協和音はそれぞれが“静かな熱狂”を携えて、見飽きぬ多面的な個性を発揮していた。

観客からは「ツノ」や「トゲ」と表現された装飾付きのタンクトップは大野さんの今季のお気に入りの一つ。「たこ足ウインナーを見た時にひらめいた」とのこと
「何の脈絡もないものを入れてみたい」と思ってつくったのが、持ち手の付いた顔のパネル。モノを収納する機能はなく、言ってみれば大型のチャームのようなもの
新しい造形美を求め、フォルムやディテールの探求を続けてきた。「『さすがにこれは分からないだろう』って思ってつくってみたものも案外受け入れられるのが面白い」。写真ルックの腹囲の装飾は破片の飛び出す“チャンピオンベルト”

ショーの後で感想を問うと、「やって良かったし、今このタイミングでやらなければならなかった」。大野さんにとってショーは修行であり、デザインは筋トレと同じく日々の積み重ねが大事なのだという。ビジネスなので当然、周囲からの評価は重要だ。それでもなお、創作の動機という一番根っこの部分は、自分自身から湧き出る原動力で満たしたいという意思がうかがえる。
今回のショーは今も心に残る、確かなインパクトがあった。それがきっと大野さんの言うデザイナー自身の熱量を伴ったクリエーションが成せるわざなのだろう。ともすると、他者からの評価に振り回されやすい現代にあっては、自分の熱狂をも見失いがちだ。しかしそれは絶対に失くしてはならない心の糧であることを、ヨウヘイ オオノのコレクションは教えてくれる。

All Photography ©YOHEI OHNO

呉 佳子

ファッションディレクター

資生堂ファッションディレクター
ファッショントレンドの分析研究やトレンド予測を担当。毎季、コレクション取材で世界を飛び回る……だけならカッコいいのですが、家では2児の世話に髪を振り乱す毎日。