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Rocky’s report from Shanghai

Vol.7  実店舗の力、中国の新しいリテールシーン。

2021.01.25

文/令狐磊 Rocky Liang

翻訳/サウザー美帆

昨年より、『花椿』中国語版は中国国内15都市にて配布しています。『花椿』中国語版の制作にご協力いただいている、上海のクリエイター集団「文化力研究所」の代表で編集者の令狐磊(ロッキー・リアン)さんが、中国でいま注目のアートやカルチャーについてをマンスリーのレポートでお届けします!

「上海蔦屋書店 」Photo by Tashi

  コロナ禍で海外に買い物に出かけられなかった2020年。中国人の旅行先は東京、パリ、香港から上海、北京、成都に変わり、中国では今、ネットショップ市場が拡大すると同時に、リテールの現場も新たな局面を迎えています。例えばショッピングモール、北京の「SKP」は2020年度の売上高が175億元(約2800億円)、前年比15.13%増。中国の商業施設として最高売り上げを記録しました。

 

 2020年の年末には「蔦屋書店」が杭州に続き、上海にもオープン。歴史的建造物を使った上海店は銀座蔦屋書店の如く、カルチャーやアート関連作品をメインに取り扱っています。以前はわざわざ東京まで買いに行っていた「DESCENTE BLANC」も北京の三里屯(サンリトン)に昨年10月にオープン。日本人建築家の長坂常による吊り棚式のミニマルな内装は、現代アートのインスタレーションのような雰囲気。これまでは海外に行かなければ訪れることができなかった店が続々と中国でオープンしています。

「DESCENTE BLANC」北京三里屯店 デザイン:長坂常

 海外ブランドにのみならず、国内の店舗にも新世代スタイルを感じます。例えば北京の「SKP-S」と上海の「淮海TX」。SKPはもともと台湾の新光三越百貨店と北京華聯グループの合弁によって生まれた「新光天地」という名称の百貨店でスタートしましたが、その後、台湾資本が離れ「SKP」に名称変更。2019年12月からは建国路を挟んだ向かい側に「SKP-S」という南館を増設し、さらなる個性を追求。オープン時には多くの大手ブランドが特別限定コレクションを販売し、実店舗ならではの力を見せつけました。

 「SKP-S」の店舗デザインにはストーリー性があります。たとえば二階のSKP SELECTは火星博物館という名称。”火星への人類移住100年記念”がテーマで、すべての販売商品がこのテーマに基づいているのが特徴です。

「SKP-S」のコンセプトは未来のショッピングモール。写真は火星移住後の未来農場をテーマにした韓国のアイウェアブランドの店。

  一方、「淮海TX」の正式名称は「百聯TX淮海|YOUTH ENERGY CENTER」。この場所には1993年から2008年まで伊勢丹があり、その後は目立った商業施設はなく、上海の目抜き通りである淮海路におけるリテールの移り変わりがうかがえます。。「淮海TX」はアートをテーマとしたキュレーション型リテール”CURETAIL”(Curation for Retailの造語)を標榜。中国初の商業スペースよりもアート展示の方が多いショッピングモールで、2019年年末にオープンして以来、若者たちが集まるスポットとなっています。アイコン的な人物の店やさまざまなイベントもよく話題となり、中国でも大人気の香港出身のK-POPスター、ジャクソン・ワンが手掛けるブランド「TEAM WANG」が最近オープンし、開店時には大行列ができていました。

TEAM WANGの展示「ME VS ME」より

 いまはコロナの影響で、多くの実店舗は現場でのショッピング体験とニッチなアイテムを探し求める女性消費者の心理に注意を払っています。誰もが海外に行くことができない状況下で、中国版インスタグラム「小紅書」などのSNSで発信される情報が、ニッチなカテゴリーのアイテムの販売を促進しています。

 SNSの世界的な拡大に伴い、リテールデザインの方向性もよりグラフィカルに変化しています。杭州のデザイナー梅数植(メイシュウジ)がつくった小劇場「西劇 XIXI LIVE」のピクトグラムは、漢字の組み合わせによるユニークな視覚体験を楽しめます。「西劇 XIXI LIVE」は、演劇、映像、美食、マーケットが複合した建物で、その多機能性も新たなリテールの姿を実感させてくれます。

「西劇 XIXI LIVE」 ピクトグラムデザイン:梅数植

 中国在住の日本人建築家・青山周平とカフェ「% ARABICA」とのコラボレーションは瞬く間にSNSで話題の店になりました。彼が最初にデザインした上海の旧フランス租界の建国西路店に加え、2020年には成都と重慶にもオープン。成都店は古民家を利用、重慶店は山の街をイメージした階段を採用したつくり。多くの若者を引き付けるための革新的な店舗デザインがより重視されているのです。

 実店舗の意味を模索する新たな動きは教育の場にも見られます。同済大学のデザインカレッジでは「新しいリテール× 新しいライフスタイル」をテーマに、学生とカナダのコーヒーチェーン「Tim Hortons」が共同で、商業ブランドや商業空間のデザインに関する知識を集結させ、ブランドと未来のライフスタイルが生み出す創造性について研究しています。
 
 実店舗の力に、中国は今やっと気づき始めたのかもしれません。

「% ARABICA」上海建国西路店  デザイン:青山周平
「% ARABICA」重慶万象城店  デザイン:青山周平

クリエイターの紹介

令狐磊 Rocky Liang

クリエイティブディレクター/編集者

『生活月刊LIFE MAGAZINE』など数々のカルチャー誌の編集長を歴任。現在は上海『衡山・和集』『方所 上海浦東店』など文化発信地的な書店のクリエイティブディレクターも務める。同時に文化とビジネスの新しいスタイルの融合を目指す文化力研究所の所長として『花椿』中国版の制作を指揮するなど多方面で活躍中。

サウザー美帆

編集者/翻訳者

元『エスクァイア日本版』副編集長。上海在住を経て、現在は東京を拠点に日中両国のメディアの仕事に従事。著書に日本の伝統工芸を紹介する『誠実的手芸(誠実な手仕事)』『造物的温度(ものづくりの温度)』(中国語、上海浦睿文化発行)。京都青艸堂の共同設立者として中国向け書籍の出版制作にも携わる。

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