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Rocky’s report from Shanghai

2021.02.19

Vol.8  陳粉丸(チェン・フェンワン)は中国の草間彌生?

文/令狐磊 Rocky Liang

翻訳/サウザー美帆

『花椿』中国語版の制作にご協力いただいている、上海のクリエイター集団「文化力研究所」の代表で編集者の令狐磊(ロッキー・リアン)さんが、中国でいま注目のアートやカルチャーについてお届けします!

Chen Fenwan『Infinite』2017
Different kinds of paper, acrylic, LED lights, mirror finish stainless steel Dimensions variable

 迎えるは巨大な龍。それは空を舞い、ときに壁に隠れ、ときに柱をグルグル巻きにしています。中国あるいはアジアの文化において龍は、さまざまな作家によって多様な解釈が行われていますが、紙を使うアーティスト陳粉丸(チェン・フェンワン)のこの龍のタイトルは『Infinite』。面白いのは、今回、上海明珠美術館に展示されたこの作品が、2年前に広州で最初に展示されたときと比べて3倍の長さになっているところです。

Chen Fenwan『Infinite』2017
Different kinds of paper, acrylic, LED lights, mirror finish stainless steel Dimensions variable

「これは絶え間なく拡張する作品です。展示の度に少しずつ長くなっていくのは、私の頭の中にある龍の神秘性を表しています」と話すチェン・フェンワン。トレードマークでもあるピンクのメッシュに、ピンクのスニーカーを履き、コロナ禍のマスクもピンクのグラデーションカラー。華やいだ雰囲気を感じさせてくれます。
 ピンクをビジュアルの基調とした彼女の作品は、視覚的なプレゼンテーションで知られる草間彌生を連想させます。龍の鱗をよく見ると、小さく伸ばした手や、目が入った手のひらなど、各パーツが精巧な切り絵になっているのがわかります。龍の関節を「点」とし、その点から無限の可能性をもつ「線」を形成し、絶え間なく続くしなやかな転回を表現。「∞」を分母にした1から始まる数字が龍の各関節に表示されています。

 チェン・フェンワンのほとんどの作品に見られるのは「手」という要素。別の作品『Lucky Garden』では手相で人のDNAを表現しています。中国には “人生は手相で決まる”という迷信がありますが、「でもそれは古代のビッグデータの統計から得られた結果かもしれない」と、彼女は言います。彼女が手に興味をもつのは、子供の頃に母親がよく手相占いの話をしていたからだそう。この作品をつくるときに、彼女はこのような告知を出しました。「手相の写真を私に送ってください。それをもとに切り絵をつくります」

Chen Fenwan『Lucky Garden』2020
Paper, acrylic, motor, mirror finish stainless steel
Chen Fenwan『Lucky Garden』2020
Paper, acrylic, motor, mirror finish stainless steel

 そして光沢のある紙を使って切り抜いた手のひらを組み合わせ、奇異な花をつくり、機械で回転させ、六面鏡の室内に無限にその花が反射するサイケデリックな空間を完成させました。まさに草間彌生の『無限の鏡の間』を彷彿とさせます。

Chen Fenwan『Lucky Garden』2020
Paper, acrylic, motor, mirror finish stainless steel

 中国の現代アート界においては、年々女性アーティストの注目度も高くなっており、展覧会のチャンスも以前に比べて多くなっていますが、チェン・フェンワンのような大胆で突出した作品はまだそれほど多くありません。重苦しい伝統は中国の若いアーティストの肩にものしかかっていますが、この伝統に新しい解釈を加えた立体的な切り絵作品には圧倒されます。
「私が学生の時に最初に紙で創作を始めたのは、素朴で安上がりだったから。でも紙は再利用できるエコな素材でサスティナブル。紙を使った創作にこだわっていきたいです」。そう語る彼女は最近、広州の西南の街、仏山市の古民家にアトリエを移しました。片田舎の静かな場所で、ゆったりと創作を続けています。

 

Chen Fenwan『Infinite』2017
Different kinds of paper, acrylic, LED lights, mirror finish stainless steel Dimensions variable

陳粉丸(チェン・フェンワン)
2013年広州美術学院版画科卒業後、紙をコンセプトに創作を開始。中国の民間芸術である切り絵と現代アートを結び付け独特な視点で作品を制作。国内外で個展を多数開催するとともに大型のグループ展などにも参加し「中国で最も期待される紙アーティスト」と称される。パブリックアートにも積極的で、アートの多次元的な境界線を探りながら作品を通して多くに人々との対話を試みている。現在、上海明珠美術館で開催中の「Manque de Recul: Interdisciplinary Trends in Art」展(開催中〜5月5日まで)に『Infinite』『Lucky Garden』を出展中。

令狐磊 Rocky Liang

クリエイティブディレクター/編集者

上海の出版社Modern Media社が発行するカルチャー誌『生活LIFE MAGAZINE』『週末画報Modern Weekly』などのクリエイティブディレクターを務める。同時に文化とビジネスの新しいスタイルの融合を目指す文化力研究所の所長として『花椿』中国版の制作を指揮するなど多方面で活躍中。

サウザー美帆

編集者/翻訳者

元『エスクァイア日本版』副編集長。上海在住を経て、現在は東京を拠点に日中両国のメディアの仕事に従事。著書に日本の伝統工芸を紹介する『誠実的手芸(誠実な手仕事)』『造物的温度(ものづくりの温度)』(中国語、上海浦睿文化発行)。京都青艸堂の共同設立者として中国向け書籍の出版制作にも携わる。