資生堂が時代時代にお送りしてきた広告作品、そのクリエイションにこめられた“美”のストーリーを紹介する本誌企画「SHISEIDO MUSEUM」。自粛期間特別企画として、こちらでバックナンバーをご紹介します。資生堂が広告をとおして提案してきた、未来へ向けての希望のメッセージを感じていただけたら幸いです。
「ゆれるまなざし」
一人の少女が何かを伝えようとしているかのような表情でこちらを見つめています。少女の切れ長の目と真っすぐに切りそろえられた黒髪が、ほの暗い部屋や紫の衣装の印象とあいまってミステリアスな雰囲気を漂わせます。
この広告は1976年の秋のプロモーションの広告です。モデルは撮影当時16歳だった真行寺君枝。少女から大人の女性へと移り変わる微妙な時期特有のアンニュイな表情が見る者に強い印象を与えるこの広告で、彼女は一躍有名になります。
日本の高度成長期が落ち着いてきた1970年代半ばから、資生堂の広告では時代の空気を反映したのか青空の下や華やかな街角で明るくふるまう女性像とは違う、室内でひっそりとたたずむ女性が多く登場するようになってきました。この広告でも、部屋の陰りと背後の煙草の煙のたなびきを感じさせる斜めに射す淡い光が、「ゆれる、まなざし」のキャッチコピーの通り、少女の持つ強いまなざしをより印象的なものにしているようです。
光と陰の芸術である写真という表現の魅力を最大限に生かしたこの広告は、1970年代の資生堂を代表する広告として今も見る人を魅了します。
文/丸毛 敏行(資生堂 社会価値創造本部)