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現代銀座考

2022.01.13

現代銀座考 : XLI アントニン・レーモンドのピアノから

写真/伊藤昊

文、イラスト/森岡督行

森岡書店代表の森岡督行さんが、銀座の過去、現在、そして未来をつなげる新しい物語です。時の人々が集い、数々のドラマが生まれた銀座には、今もその香りが漂っています。1964年頃に銀座を撮り続けていた写真家・伊藤昊さんの写真とともに、銀座の街を旅してみましょう。

 

 

1964年に改装した銀座6丁目の松坂屋の前。改装はアントニン・レーモンドが担当した。

現代銀座考 : XLI

アントニン・レーモンドのピアノから

 先日、高崎駅を歩いていると、構内に、一台のグランドピアノが置いてありました。そこには、ピアノについて解説があり、建築家のアントニン・レーモンド(*1)がデザインした1960年のヤマハ製であることが書かれていました。1951年に旧ヤマハ銀座ビルが竣工した際に、レーモンドがピアノもデザインしたとのこと。高崎には、レーモンドが設計した群馬県音楽センターや、レーモンド建築と関わりの深い旧井上房一郎邸があるため、その由縁から、このピアノがここに設置されました。全体のカラーが赤に近く、グランドピアノの黒というイメージからかけ離れているのが、何と言っても特徴でしょう。鍵盤を支える両サイドの木材を流線型ではなく、あえて直線的にしているようです。私は、「レーモンドはピアノもデザインしていたのか」と驚くと同時に、こう思いました。「なぜ黒ではなく、赤を採用したのだろう」と。

 

もちろん、レーモンドが来日したのは、旧帝国ホテル建設のためでした。ときは1919年、師のフランク・ロイド・ライトと共に。銀座との関わりで言えば、その後、教文館ビルを設計し、そのなかに自身の建築設計事務所をかまえました。1937年12月には資生堂ギャラリーで「レーモンド建築事務所作品写真展覧会」展を開催してもいます。翌1938年に『Antonin Raymond Architectural Details』という本を出版していますが、年代的にこの本に掲載された写真が、資生堂ギャラリーで展示されたのではないかと私は考えています(かつては稀覯本で高額で取引されていましたが、現在は鹿島出版会から復刻版が出ました)。戦時中はアメリカに戻り、日本の都市の延焼について米軍で研究をしていたこともありました。戦後1948年に再来日したレーモンドが手がけた建築の一つが、銀座7丁目の旧ヤマハ銀座ビルだったというわけです。『自伝 アントニン・レーモンド』には以下のような記述があります。

「インテリアの設計は、構造設計と同じくらい重要な建築家の仕事であり、屋外と屋内はひとつに融合しているべきです。カップボードやクローゼットのように家の中で最も重い家具は、構造の一部として造作(ビルトイン)されるべきであり、造作でない家具については、軽くて持ち運びしやすくなければいけない、ということをライトは私たちに教えてくれました」

 私は訪れたことがありませんでしたが、残された写真を見ると、銀座7丁目の旧ヤマハ銀座ビルにも素晴らしい音楽ホールがありました。レーモンドは自ら設計したホールにふさわしいピアノを、自らデザインしたのではないでしょうか。幕が開いて、赤いピアノがパッと現れたなら、いかにも銀座らしい演出だと思いませんか。「屋外と屋内はひとつに融合しているべき」という観点を考えれば、屋外では、銀座7丁目の交差点の花椿に、赤い花の咲く季節が確かにあります。もしかしたらレーモンドはこの椿の花をみていたのかもしれません。

*1 アントニン・レーモンド/1888-1976。
1919年、近代建築三大巨匠のひとり、フランク・ロイド・ライトの助手として帝国ホテル建設のために来日。その後1973年に85歳で日本を去るまで、第二次世界大戦前までの18年間と戦後の26年間のあわせて44年間を日本に滞在した。

 

伊藤 昊

写真家

いとう・こう 1943年大阪府生まれ。生後まもなく、両親と共に父親の実家のある宮城県涌谷町に疎開。6年生のときに、京都太秦の小学校に単身で転校。1955年に東京の明治学院中学校に入学。1961年に東京綜合写真専門学校に入学。1963年に卒業後、同校の教務部に就職。この頃に写真展を2度開催する。1968年に同校を退職し、フリーのカメラマンとなる。1978年に益子に移住し、塚本製陶所の研修生となる。1981年に築窯し陶芸家として独立。その後は晩年まで陶芸家として活動する。2015年に逝去。
5月5日に写真集『GINZA TOKYO 1964』が森岡書店より刊行された。
https://soken.moriokashoten.com/items/2dabee933141

森岡 督行

店主

森岡書店主。森岡書店代表。1974年、山形県生まれ。森岡書店代表。著書に『荒野の古本屋』(小学館文庫)、『800日間銀座一週』(文春文庫)などがある。共著の絵本『ライオンごうのたび』(あかね書房)が全国学校図書館協議会が選ぶ「2022えほん50」に選ばれた。現在、小学館「小説丸」にて『銀座で一番小さな書店』を連載中。
https://www.instagram.com/moriokashoten/?hl=ja