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現代銀座考

現代銀座考 : XXXVIII 銀座と雑貨

2021.11.18

写真/伊藤昊

文、イラスト/森岡督行

森岡書店代表の森岡督行さんが、銀座の過去、現在、そして未来をつなげる新しい物語です。時の人々が集い、数々のドラマが生まれた銀座には、今もその香りが漂っています。1964年頃に銀座を撮り続けていた写真家・伊藤昊さんの写真とともに、銀座の街を旅してみましょう。

 

 

このお店のどこかでも雑貨が販売されていたかもしれない、1964年の銀座。

現代銀座考 : XXXVIII 

銀座と雑貨

 以前、21_21 DESIGN SIGHTで開催された「雑貨展」にて、私は、『銀座八丁』(木村荘八編著『銀座界隈』の別冊)を用いた展示を行いました。『銀座八丁』は、1953年から1954年にかけて、中央通りの東側と西側を撮影したアルバムです。蛇腹になっていて、伸ばすと、4メートルくらいになります。それをテーブルの真ん中に広げ、例えば、伊東屋や松屋銀座、三越、鳩居堂、教文館など、アルバムに写っていて、かつ、現在もそこにあるお店で「雑貨」を買ってテーブルに並べました。
 また、このアルバムには、1921年(震災前)、1930年(震災後)、1942年(戦災前)と3つの時期に分けて、かつてその場所にあったお店の名前が印字されています。例えば、銀座7丁目西側のとらや銀座店(*現在休業中)の場所なら、「レストラン・コリドー、茶舗宇治園、吉田毛織物展」というように。そして、そのなかには、8軒もの「雑貨店」がありました。伊東屋で虫眼鏡を5つ求めて、アルバムの上に置き、銀座の「雑貨店」を探してもらうような展示を行いました。
 
 数ある雑貨店のなかでもとりわけ気になったのが「江戸屋外人雑貨店」です。アルバムの写真には「江戸屋」という看板が写っています。このお店は、銀座4丁目の三越の隣、現在の銀座いさみやの場所にあったようです。名前からして「何を売っていたのだろう」と思わざるを得ません。もしかしたら、京橋図書館の画像データを検索すれば何かわかるかもしれないと思った私は、スマホで検索してみました。すると、「江戸屋」というお店の写真がすぐに出てきました。写真をよく見ると「干しブドウ」「バター」「チーズ」「ソーセージ」を販売していたようです。スマホを片手に、銀座いさみやの前に立ってみると「この場所にはかつてこのようなお店があったのか」と、目の前の風景が違って見えるような気がしました。

 ところで、最近知ったのですが、杉本博司さんは、「海景」シリーズの撮影で外国の僻地に1カ月ほど行くとき、白米に梅干しと海苔をもっていくという、江戸時代のような旅行スタイルだったそうです。そして、そこには、とらやの羊羹「夜の梅」もありました。しかも、これは一粒で二度おいしい。というのも、「海景」シリーズで夜の海を撮影するとき、露出計の役割を果たしたのです。「小豆の粒のある切り口が見えなくなる寸前が撮影のタイミングで、一日の最後の残り日、切り口が見えるか見えないかの光のときに、最高のトーンが出る」と。もしこのことを「雑貨展」を準備しているときに知っていたなら、私は、迷わず「夜の梅」をテーブルに並べたことでしょう。そして、「なぜ、羊羹が雑貨なのですか」と質問されるのを待ったことでしょう。

「雑貨」というワードがいつから日本語にできたのか定かではありませんが、もしかしたら、銀座が「雑貨」の伝播基地になったのではないかというイメージが、アルバムを開いて広がりました。

 

クリエイターの紹介

伊藤 昊

写真家

いとう・こう 1943年大阪府生まれ。生後まもなく、両親と共に父親の実家のある宮城県涌谷町に疎開。6年生のときに、京都太秦の小学校に単身で転校。1955年に東京の明治学院中学校に入学。1961年に東京綜合写真専門学校に入学。1963年に卒業後、同校の教務部に就職。この頃に写真展を2度開催する。1968年に同校を退職し、フリーのカメラマンとなる。1978年に益子に移住し、塚本製陶所の研修生となる。1981年に築窯し陶芸家として独立。その後は晩年まで陶芸家として活動する。2015年に逝去。
5月5日に写真集『GINZA TOKYO 1964』が森岡書店より刊行された。
https://soken.moriokashoten.com/items/2dabee933141

森岡 督行

店主

森岡書店主。森岡書店代表。1974年山形県生まれ。著書に『荒野の古本屋』(晶文社)、『BOOKS ON JAPAN 1931-1972』(ビー・エヌ・エヌ新社)などがある。企画協力した展覧会に「そばにいる工芸」(資生堂ギャラリー)、「畏敬と工芸」(山形ビエンナーレ)などがある。近年は洋服などのプロデュースを手がけることも多い。株式会社森岡書店代表。『工芸青花』(新潮社)のウェブサイトにて「森岡書店日記」を連載中。

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