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Column

2023.10.31

初めて資生堂パーラーの商品デザインを担当した服部一成、 新商品「花椿ショコラ&サブレ」のパッケージに込めた思い。

インタビュー・文/上條桂子

写真/上澤友香

資生堂パーラーの新商品「花椿ショコラ&サブレ」が11月1日(水)より、全国の資生堂パーラー店舗およびオンラインショップにて発売となる。新商品のパッケージデザインを担当した服部一成氏に、デザインに込めた思いと資生堂パーラーの思い出を伺った。

資生堂パーラーの定番シリーズに新たな商品が加わった。11月1日(水)に全国で発売となる「花椿ショコラ&サブレ」だ。鮮やかで上品な紫色と白のストライプと、資生堂のシンボルマークでもある「花椿マーク」をあしらった商品パッケージのデザインを担当したのは、アートディレクターの服部一成氏だ。

「資生堂パーラーのお菓子と言えば、仲條正義さんの強烈な個性を持ったパッケージのイメージが定着している。現在の『銀座アヴァンギャルド』のシリーズに加わる新商品ということで、もちろん緊張はしましたし、個人的に思い入れのあるブランドでもあったので、お話をいただいた際は光栄でもあり、本当に来ちゃったという焦りもありました」と服部氏。

「銀座アヴァンギャルド」というのは、現在資生堂パーラーで販売されている定番商品のシリーズであり、2015年にデザインを一新した際のコンセプトだ。デザインを担当したのは、『花椿』のアートディレクターを40年務め、2021年に亡くなった仲條正義氏である。仲條氏は、その前、1990年に行われたリニューアルでもデザインを担当している。服部氏は、90年のリニューアルの際、わざわざ銀座の資生堂パーラーに商品を買いに行ったのだという。

「グラフィックデザイナーになりたいと思っていた頃、本や雑誌、レコードジャケットと並んで、デパートに並ぶようなお菓子のパッケージができたらとあこがれたものです。僕が大学を卒業して銀座のライトパブリシティに入社したのが88年。仲條さんが90年に資生堂パーラーのパッケージを初めて手がけて大リニューアルした時はもちろん覚えていて、パッケージ欲しさに銀座八丁目の本店までよく行きました。青とゴールドの紙袋だったのですが、当時、食べ物のパッケージに青、しかも鮮やかなシアンを使っていたのがすごく刺激的でした。ひとつひとつの箱や缶のどれも魅力的で、買い物をしたときの高揚感は忘れられません。それから25年たった2015年にもう一度仲條さんがリニューアルを手がけたわけですが、この『銀座アヴァンギャルド』のシリーズは仲條さんの中でも特に弾けたデザインだと思います。今回のお話をいただいた時に、どうすればこのラインナップに並ぶものがつくれるのか、僕には仲條さんと同じことはできないけれど、とにかくやってみようと思いました」

「花椿ショコラ&サブレ」は、全粒粉も使用したバターサブレと3種類(オレ、ブラン、ノワール)のチョコレートを合わせ、花椿マークをかたどったお菓子。資生堂のシンボルマークである“花椿マーク”を前面に押し出し、「銀座アヴァギャルド」シリーズでも印象的に用いられているストライプを用いた。

「初めて手がける商品に花椿マークが使われていたのは、ある意味ラッキーだったというか(笑)。花椿マークはとてもシンボリックで強いし、ロゴの形がそのまま缶の形になった「花椿ビスケット」という商品もある。味が3つあることから3色の花椿マークを並べ、マークを強く打ち出したパッケージと考えながらデザインをしていきました。意識したのは、資生堂パーラーらしさと定番感。そんなに変わったことはせず、花椿マークと商品名とストライプを重ねました」

濃い鮮やかな紫色のストライプの上に黒い文字で、商品名の欧文文字「HANATSUBAKI CHOCOLAT & SABLÉ」が入る。その上にまるでシールをペタリと貼ったように、三つの花椿マークが並ぶ。一見すると非常にスタンダードなデザインのようにも見えるが、ストライプの線と商品名の文字が干渉していたり、文字の上にロゴマークが一部かぶさっていたり。やっぱりこれは「銀座アヴァギャルド」のシリーズだと納得する。服部氏は、デザインを進めていく過程で、資生堂パーラー側に背中を押された部分もあったと話す。

「仕事の進め方というのは担当者や企業によって全然違うと思うのだけど、資生堂パーラーのみなさんが、かつて仲條さんとどんな感じでやりとりしていたのかが少し垣間見えたような瞬間がいくつかありました。このストライプも文字と干渉するので、別案でストライプを箱の側面だけにしてすっきり読みやすくした案もお見せしましたが、むしろ重なっているくらいの方がインパクトがあって資生堂パーラーらしいという反応で、なるほどと思いました」

色に関しては、最初チョコレート色で進めていたが、デザインを進めていく過程で、ふと「紫」が服部氏の頭に思い浮かんだのだという。普段の仕事でもあまり紫を使うことはなかったそうだが、チョコレートの濃厚な味わいと高級感にぴたりとマッチした。

「『銀座アヴァンギャルド』シリーズは、銀座の高級感や安定感を保ちつつも、突き抜けた強さと意外性がある。その両極にあるような価値観を一つのパッケージの中に表現している。今回のデザインでも、 “定番”と“アヴァギャルド”を両立させるというのが難しい点でした。パッケージデザインの仕事が他のデザインの仕事と特別に違いがあるわけではないけれど、お菓子はパッケージのウエイトが結構高いと思う。自分で買う人もいるし、手土産に使う人もいて、家族で食べる人もいる。いろんなシーンを思い浮かべて、このデザインがどう映るのか、何度も想像しました」

服部氏にとって資生堂パーラーは、仲條氏との思い出が詰まった場所でもある。若い頃はパッケージを買い求めに客として訪れたが、親交が深まってからは一緒に食事をすることも多かった。仲條氏と二人展を開催した時の懇親会も、亡くなる前に最後に一緒に来たのも資生堂パーラーだったという。

「仲條さんは『(資生堂)パーラーのロゴはあんなにバカげたデザインだから長持ちしているんだ』なんて言っていましたが、確かにあのロゴはパッと見た時に、一瞬すっと飲み込めない部分がある。そのすんなり理解できない部分が生命力になって、すごく強い。そのあたりの仲條さんの独特な判断は簡単に真似できるものではないですが、僕なりに咀嚼しながら資生堂パーラーらしさを考えていきたいと思っています。」

 

information
≪チョコレートとバターサブレの食感を楽しむ『花椿ショコラ&サブレ』 ≫
6 枚入 2,484 円/9 枚入 3,672 円
*2023年11月1日発売
*百貨店を中心とする全国の資生堂パーラー店舗、オンラインショップで販売いたします。
*数量限定につき、なくなり次第終了となります。

美味しいものが世の中にあふれている中で、『花椿ビスケット』のように資生堂パーラーにしか作れない、長く愛される商品をお客さまにお届けしたい。そんな想いから“花椿マーク”をモチーフにした新商品『花椿ショコラ&サブレ』が誕生しました。北海道産の小麦全粒粉・ライ麦全粒粉にフイユティーヌを加え、ゲランドの塩でアクセントをつけたバターサブレになめらかなチョコレートを合わせたスイーツです。バターサブレのザクザクとした食感と、なめらかで上品なチョコレートのマリアージュをお楽しみいただけます。
風格のあるパッケージデザインは、服部一成氏が手がけています。

商品情報
写真:株式会社資生堂パーラー提供
写真:株式会社資生堂パーラー提供

 

服部一成
1964年東京生まれ。1988年東京芸術大学美術学部デザイン科卒。同年ライトパブリシテイ入社。2001年よりフリーランスのアートディレクター、グラフィックデザイナーとして活動。おもな仕事に「キユーピーハーフ」などの広告キャンペーン、「流行通信」誌リニューアルのアートディレクション、旺文社「LEXIS英和辞典」などの書籍デザインほか。東京ADC賞(1999、2000、2001)、東京ADC会員賞(2003)、亀倉雄策賞(2004)などを受賞。

上條桂子

ライター/編集者

雑誌でカルチャー、デザイン、アートについて編集執筆。展覧会の図録や書籍の編集も多く手がける。武蔵野美術大学非常勤講師。著書に『玩具とデザイン』(青幻舎)。2022年10月には編集を手がけた『「北欧デザイン」の考え方』(渡部千春著、誠文堂新光社)が発売。
https://twitter.com/keeeeeeei
https://www.instagram.com/keique/?hl=ja

上澤友香

写真家

1989年、長野県生まれ。大学時代にデザインや映像を学ぶ。卒業後三部正博氏に師事し、2015年に独立。ファッション誌を中心に、さまざまな媒体での撮影と並行して、“誕生”をテーマにしたプロジェクト「nascence」など、自身の作品も撮り続けている。
http://yukauesawa.com/
https://www.instagram.com/uechan.jp/
https://nascenceposts.tumblr.com/