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Column

2023.11.03

紙碑としての『New Habitations from North to East 11 years after 3.11』

インタビュー・文/花椿編集室

『New Habitations from North to East: 11 Years After 3.11』は2011年の震災で「住む風景」が一変した東北の沿岸部を中心に、11年後の「復興後」の風景をリサーチした本である。この写真詩集は、編集者の柴原聡子さん、詩人の瀬尾夏美さん、デザイナーの米山菜津子さん、写真家のトヤマタクロウさんが旅を重ることによってつくられた。

読んでみると不思議な本だった。本書編集の柴原聡子さんは巻末で次のように述べている。「地表に飛び出した一端をトヤマさんの写真が捉え、それを辿った先にある地中の絡まりを、瀬尾さんが聞いてきた土地の声があらわにする。」東北地方で起きた出来事やそこで生きる人々の姿が、淡々とことばと写真で捉えられていて、風景とその背景がすっと入ってくるような新しい体験をもたらす本である。その制作背景について本をつくったチームに話を聞いた。

ーー写真や詩、リサーチ、建築など、さまざまなジャンルを横断しながら一つの新しい体験をもたらしてくれる本だと思います。ただ、この体験は実際に手に取ることのみで得られるもののように感じます。この本はどのようにして生まれたのでしょうか。

柴原 私は大学で建築を学びましたが、現在はアート関連の編集業をしています。気候変動による自然災害の増加が身近な問題になっている今、建築がこれらの問題に対して意外と無関心であると感じていて、「住む場所を自分でどう選ぶのか」「土地の居住可能性」という基本的な問いに興味を持っていました。瀬尾さんが東日本大震災後の陸前高田や、2019年に洪水被害を受けた宮城県丸森町でリサーチをしていたことを知り、一緒にプロジェクトを立ち上げました。

ーー風景の写真に対する瀬尾さんのことばは印象的ですが、どのような思いで書かれたのでしょうか。

瀬尾 2011年から東北の沿岸地域でボランティア活動を行いながら、地元の人々と対話を重ねてきました。東日本大震災以降、津波で大きな被害を受けた陸前高田では一時住みながらリサーチと作品制作を続けてきましたが、この本のプロジェクトでさらにさまざまな地域の声を聞くことができました。例えば、陸前高田の新しい防波堤には、景観や環境問題に対するさまざまな意見や議論が存在します。一方で、今回訪れた岩手県の県北地域では、歴史的な経緯を考慮すると、防波堤の存在自体が非常に重要でもありました。
家々の外観は似ているかもしれませんが、その背後にはそれぞれ異なる選択があり、地域ごとの歴史的な経緯やそこに暮らす人々の価値観は異なります。「震災11年後の今ならそうしたことを写し込めることができるのはないか」と考え、私が11年間にわたって聞かせてもらってきた語りや、各地域の特徴を、可能な限り網羅的に、そして忠実に記録する形でこの本の文章を綴りました。

ーー写真とともにある文章は、詩的な要素もあれば、地域の人のことばも含まれています。写真とは必ずしも直接的な関連性がないようですが、そのスタイルがこの本の在り様をかたちづくっていると感じました。実際の制作過程はどのように進められましたか?

米山 現地にはメンバー全員で訪れたときもあれば、個々で行く場合もありました。1回目の訪問後、撮影した写真を4人で見ながら、さらに撮影をしたほうが良い場所や、次はどの町に行くべきかなどを皆で一緒に相談していきました。当初は東北沿岸部だけを取り上げる予定でしたが、写真を見ているうちに、関東に近い地域もカバーすべきだと考え、調査地を増やしました。
本の制作過程では、写真は北から関東方面へと降りていくかたちで掲載しようと皆で決め、私が写真の並びを決めていきました。そのレイアウトを全員で確認し、そこから瀬尾さんに文章を書き下ろしてもらったのですが、その文章は必ずしも写真に直接的に対応するものではなく、その地域をおおらかに捉えつつ書いていってもらう形になりました。文章があがってから写真のセレクトや順番を入れ替えたりもしましたし、さらに追加で撮影しに行ったりもし、何度も調整を経て、最初に想像していたものよりだいぶ拡がりのある形になっていきました。

瀬尾  調査地を増やしたことについてさらに言うと、最初の北部の風景では海が荒々しく、過疎化も進行しており、都市部に住む人々には遠く感じられます。しかし、南下すると福島県のいわきに至り、関東の郊外に似た住宅地が広がっています。そのような地域が津波被害を受け、原発事故の影響を受けているわけです。北から南に進む過程で、都市部の人々と被災地がどんどんつながっていくような感覚がありました。そのため、茨城などの近い風景も取り入れ、東京と地理的に繋げようと考えました。被災後の東日本の人々がしっかりと生きていることを伝えるとともに、東京が多様なインフラで守られているのに対し、被災した地域はそもそも災害に弱いという構造的な問題を、読者に自分事として感じてもらいたいと思いました。北ではその地域で伝承されている不思議な物語を多く取り上げ、南ではそこで暮らす人々のリアリティのある語りを多くしています。
ことばにおいて重視したのは“複声的”になるようにすることです。一人の語りとして書いているものでも、さまざまな人々の声が含み込まれているように心掛けました。具体的に顔が浮かぶ人もいれば、実は架空の人もいます。これらの登場人物は、11年間で出会った多くの人々のことばや感情が混ざり合うようにして生まれたものです。
最初はレイアウトされた写真に基づいて文章を書こうと考えていましたが、写真とことばが密接すぎると、双方の自由度が失われてしまうように感じました。私が旅をする中で得たことばや感情を、11年間の歴史的な経緯と各地の違いを踏まえ、取りこぼしがないようにこの本に刻み込みたいと考えました。この本は、その意味で“紙碑”のような存在かもしれません。

ーートヤマさんはどのように風景をきりとっていたのでしょうか?

トヤマ 普段のスタンスと近いのですが、「見たままを切り取った」という感覚が強いです。最初から写真とことばの間には一定の距離を置くべきだという共通認識がありました。瀬尾さんのことばはその土地々々に寄り添って長い時間をかけて紡がれているため、写真はその背後の意味よりも、初めに見た印象そのままに、それぞれの風景の表面にある肌理のようなものを客観的に捉えるよう心掛けました。言葉と写真の距離感が独特なので、結果として、一見しただけでは分かりにくい本になったと思います。実は私自身もこの本についてまだはっきりと言語化できないのですが、その不明確さが魅力であると感じています。

ーー最後に、どのような人たちにこの本を読んでほしいと考えていますか?

柴原  10年以上が経ち、震災に対して「一区切り」の感覚を持っている人も多いと思います。それでも、その日の出来事を忘れてしまうことは避けたいと考えています。また、異常気象の増加に伴い、「被災地」と言われるような場所が年々増えています。被災直後の大変な風景を見ると、ここに住み続けられるのだろうか?と思ってしまう人も多いでしょう。そのような場所でも、人々は日々生活を営んでいます。この本は、東北の現在の風景を切り取った写真集として、瀬尾さんのことばを通してこの11年の経過を知る、ある種の記録として、また「住まい」や「復興」、「防災」のあり方を考える建築的な本としても読み解くことができるといった多面性があります。様々なアプローチから、被災地が遠く離れた場所でなく、自分自身とつながっている土地なんだと感じていただけたらうれしいです。

 

information

≪書籍概要≫
『New Habitations from North to East: 11 years after 3.11』
写真|トヤマタクロウ
詩|瀬尾夏美
装丁|米山菜津子
編集|柴原聡子
翻訳|大久保玲奈、サム・ベット

YYY PRESS刊
言語 日本語(一部日英併記)※本編の詩の英語版別紙も一部発行予定
上製 312 頁 横188 × 縦263 mm
定価=本体5,500 円+税 ツバメ出版流通取扱 
ISBN 978-4-908254-10-9 C0070 ¥5500E
書籍サイト

≪刊行記念イベント≫
瀬尾夏美×トヤマタクロウ×小野正嗣
「被災地の現在と過去が織りなす、あたらしい風景」
『New Habitations from North to East 11 years after 3.11』 (YYY PRESS)刊行記念
場所:本屋B&B
日時:2023年11月5日19:00-21:00
詳細

 

profile

柴原聡子
早稲田大学大学院(建築学)修了後、クリエイティブ・ディレクターのアシスタント、設計事務所や国立美術館広報を経て、2015年よりフリーランスの編集・執筆・企画・広報として活動。主にアートと建築の分野で、ウェブサイトや書籍等の編集およびプロジェクトのマネジメントを行う。一級建築士。

瀬尾夏美
画家、作家。1988年東京都生まれ、在住。土地の人びとのことばと風景の記録を考えながら、絵や文章をつくっている。東日本大震災を契機に岩手県陸前高田市に移住し、映像作家の小森はるかとの共同制作を開始。以降、宮城県仙台市、丸森町に一時暮らしながらリサーチと制作を行う。著書に『あわいゆくころ 陸前高田、震災後を生きる』(2019)、『二重のまち/交代地のうた』(2021)など。今秋『声の地層』(生きのびるブックス)が刊行予定。

米山菜津子
1981年東京生まれ。2003年に東京藝術大学デザイン科卒業、グラフィック・エディトリアルデザイナーとして活動開始。CAP、PLUG-IN GRAPHICを経て2014年にYONEYAMA LLC.を設立。出版レーベルYYY PRESS主宰。オムニバス冊子『GATEWAY』を不定期で発行するほか、オルタナティブスペースSTUDIO STAFF ONLY運営としても活動している。

トヤマタクロウ
写真家。1988年宮崎県生まれ、神奈川県在住。2010 年頃より個人的な出来事の記録のために写真撮影を開始。2012 年に個展を開催後、作品展示や写真集の制作を軸に活動。美術、音楽、ファッションなどの分野を中心にコミッションワークも行う。写真集に『Sight』(2018)、『DEVENIR』(2021)等。展覧会に『DEVENIR 2022/11/11–11/27』(本屋青旗、2022)など。