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Column

2023.08.24

アンダーカバー、高橋盾による初個展。美しさと醜さのバランスが紡ぐ美学とは

文/呉 佳子(資生堂ファッションディレクター)

東京・表参道のギャラリーにて、アンダーカバーのデザイナー、高橋盾による個展が開催されている。会場には、10年前に独学で始めたという油絵27点とブロンズの造形作品が並ぶ。ファッション分野では30年超のキャリアを重ねる高橋だが、これら新たな創造表現のお披露目は今回が初めて。会期初日を翌日に控えた高橋に背景や心境を聞いた。

――高橋さんにとって、絵を描くこととは?

高橋::小さなころからずっと暇があれば絵を描いているので、日常の延長です。今回展示しているような作品は、覚悟をある程度決めた上で描くので、日々のドローイングとは少し性格が違う面もありますが、絵を描くこと自体は自分にとって自然な行為。休みの日や仕事が終わったあとなど、リラックスしている時間に描くかな。ランニングをしたり、お茶を点てたりなど、そういった自分が好きな活動のうちのひとつですね。

――同じ創作活動でも、ファッションとは違うものですか?

高橋:全く違います。プロセスやアプローチ自体が異なるから。絵を描くときはすべて自分の感覚で進められるけど、洋服の方はチームワークですよね。皆と共有できるきちんとしたデザイン画を描いて、それをパタンナーが形にし、生産部隊を中心に工場とのやりとりを進める。さまざまな人の手から成るものです。ファッションショーでもチームワークは欠かせない。ですが絵を描くことは完全にソロワークなので、より自由な表現ができますね。

――初公開にあたっての心境は?

高橋:自分にとっては一大事。幼いころから絵を描き続けてきたけれど、こういう形できちんと発表するのは初めてなので、緊張もしています。さてどんな反応があるかなって。そういう意味ではファッションショーと近いかもしれませんね。自分の創造をドンっていきなり皆さんにお披露目するわけなので。出したからには、どう捉えるかは相手次第だし、こう見てほしいという正解はない。ただ、いろいろな人に見てもらいたいと思っています。

――今回の肖像画シリーズでは、ミュージシャンや俳優がモチーフになっていますね。

高橋:それが誰か、ということは明言しません。描かれている人物のことを知らない人が見ても成り立つようにしたかった。絵って、そもそもそういうものですよね。見た人が自分の想像の世界で好きなように感じればいい。もちろん描かれている人のバックグラウンドについて何か知っていれば見方にも影響があるだろうけど、基本、見る人が自由にとらえればいい。モチーフが誰かということは、知っていても知らなくてもどちらでもいいのかなと。

――高橋さんが考える美しさとは?

高橋:美しさとその裏にある醜さとのバランス。ファッションで表現していることと同じですが、常にこの二つがないと、と考えています。ただきれい、ただ美しいではない。肖像画シリーズのきっかけとなった2016年の作品は、もともと顔の造形のすべてを描いていて、何か違うな、と目を消した。それを見て、つまり完成したものをつぶすという表現によって、自分らしさが出てきたなと思ったんです。今回見せる作品群のスタートポイントとなりました。

目のない肖像画シリーズの発端となった作品。
“UNTITLED” (2016)

――ただの肖像画を超え、その人物の内面世界を感じさせるような表現もありますね。

高橋:今回の個展のために集中して作品作りに取り掛かっていたときに、即興的な表現をいろいろトライしてみたんです。その時にぱっと浮かんだものをまず描き、そこを起点にストーリーを展開していく。たとえば、『THE DARKEST DAYS WILL PASS』という作品では、“ピンクマンが目のないスカルを抱えている”というのが頭に浮かび、まず中央にそれを描いてみることから始めました。そこからストーリーを組み立てていった。今後も絵を描き続けていきますが、こういう即興的な感じで描いていく方法をもう少し推し進めていったら面白いかなと思っています。

右が中央にピンクマンがたたずむ作品“THE DARKEST DAYS WILL PASS”(2023)
『THEY CAN SEE MORE THAN YOU CAN SEE』by JUN TAKAHASHI
2023年8月19日(土) - 9月9日(土)
GALLERY TARGET
東京都渋谷区神宮前5-9-25 1F
12:00 - 19:00 *月曜・日曜休廊