今シーズンの東京コレクションで、ブランド初のファッションショーを見せたカナコ サカイ。世界的な活躍が期待される若手デザイナーを支援する「NEXT BRAND AWARD 2024」を受賞したことがショー開催のきっかけだ。
「せっかくのショーなので、いつものルックブックでは表現しきれない、ブランド独自の精神性やアティトゥードを知ってもらう機会にしたい」
とコレクションの内容はもちろん、音楽やライティングなど見せ方にこだわった。
テーマは「自由をまとう」
「自分の周りにかっこいい大人がたくさんいて、その人たちに着てもらえるような、戦う服であり、パジャマのような服」をイメージしたとサカイ氏。トラウザーにTシャツという彼女自身の定番ルックも、カナコ サカイのアイコニックなスタイルの一つとなっている。トリアセテート(植物由来の繊維)製のTシャツはシルクサテンのような上品な輝き。トラウザーと共布のジャケットを羽織れば、きちんとしつつもエフォートレスな印象だ。
ジェンダーの垣根からも”自由”
「男女問わず似合う人が着てほしい」というサカイ氏は、自身も普段よくメンズ服に袖を通す。ブランドが掲げるのは“女性像”よりむしろ”人間像”だそうで、モデルの個性だけを頼りに男女比を気にせずキャスティングしたところ、ちょうどショーに出演するモデルの半数が男性となったのだという。
伝統に新しいアイデアを加えた素材
”カナコ サカイらしさ”の核には独自の素材開発がある。日本の産地ならではの技術に、固定観念に囚われない新しいアイデアを加えた、思わず見惚れてしまうような独特の存在感を放つ素材だ。
今季の一押しは貝殻を特殊な技術で織りあげた螺鈿織り。螺鈿織りと絹織りをパネル状に切り替え市松模様柄にした布をコートに仕立てた。背景にはいくつかの“出会い”がある。
そもそものきっかけは友人との何気ない会話だったとサカイ氏は語る。友人が夏休みの自由研究で昔取り組んだという螺鈿細工と出会い、その美しさに興味を引かれた。クリエーションに活かせないかと考えていたところ、ふと散歩中に、貝と帯の文字が並ぶ看板が目に飛び込んできたのだという。「貝は帯に、つまり生地にできるということ?」と、その場でスマホで調べて出会ったのが、今回の取り組み先である京都・丹後の織元「民谷螺鈿」だ。その週末には京都に駆けつけた。
サカイ氏を突き動かすのは、新しい素材作りへの好奇心と、技術を持つ産地へと臆せず飛び込む“出会い”を呼び寄せる力。新素材のヒントになりそうなアイデアについて語るその情熱的な態度は思わずこちらも引き込まれてしまうほどだ。その情熱にほだされて、産地の職人さんたちもサカイ氏が提案する一見突飛なリクエストのためにひと肌脱ごうという気になるのだろう。日常の中の“出会い”を重ねながら進化を重ねるクリエーションに今後も目が離せない。