いつも私は、ここに行く!と狙いを定めて喫茶店を訪れることが多い。しかし、この喫茶店を初めて訪れたのは、巡り巡った偶然からであった。お目当ての駅前のフルーツパーラーが定休日。がっくりと肩を落として彷徨っていると「木の実」と描かれた大きな看板が私の前に現れた。それが、このぎっしりとこだわりが詰まった大きな喫茶店、小岩にある木の実だ。
いつも店内に足を踏み入れると目に留まるチェッカーフラッグ柄の床、信楽焼の狸に、たくさんの鏡や薄紫色の蛍光灯。全てが今まで出会った喫茶店では目にしたことのないものたち。もちろんここには、観葉植物やバラのゴブラン織りのクッション、きらきらと光るシャンデリアやレースのカーテンなど喫茶店に馴染み深いものもたくさんある。その中で当たり前かのように顔を揃えた異色のメンバーたち。ここは、何時で何処で何なのだろうと不思議な感覚に引き込まれる。
そんな空間にいつも少しドキドキしつつ注文をする。今日はアイスコーヒーとカレーにした。コーヒーの種類が豊富で、メニューには詳しい説明付き。こういう説明は読み物のようにじっくりと読んでしまう。必要最低限の、簡素なメニュー表も好きだけど、丁寧な説明が付いているメニューはこだわりとストレートな愛がひしひしと伝わってきて大好きだ。
そのメニューに書かれていたが、ここは小岩で一番古い創業60余年のドリップコーヒー専門店だそう。私の地元はここから近いのだけど、もしかすると私のおばあちゃんやおじいちゃんがここでデートしたことがあるかもしれないな……なんて妄想をしながらアイスコーヒーをすする。そういえばおじいちゃんとおばあちゃんのデート話は聞いたことがない。今度聞いてみよう、おじいちゃんはシャイだから、おしゃべり好きなおばあちゃんに。
カレーが運ばれてきたと思ったら、同じくらい大きなお皿で山盛りのサラダもやってきて驚いた。フルーツがたっぷり入った特製サラダはドレッシングも自家製で、またここにもこだわりを発見。とても手をかけて作られた眩しいサラダ。なんだか嬉しくなって、ついお皿を抱えてモリモリと食べてしまった。食べ終える頃にはもちろん満腹。よくおばあちゃんの家に行くと、あれもこれもたくさん食べなさい!と美味しいものがどんどん出てきてついたくさん食べてしまう、あのときの身も心も満腹になる感覚に似ていて、もう今夜はここで布団を敷いて眠りたい気持ちになった。
しかし、やっぱりここは不思議な空間だ。天井を見上げると三角形のような図形が折り重なったくぼみがあり、薄紫色の蛍光灯が妖しく光っている。マスターによるとこれは植物が綺麗に見えるようにする植物灯だそう。なんだ、全く妖しいものなんかじゃなく素敵なこだわりだった。今日は、ベロアのワンピースを着て行った。喫茶店にベロアの服が似合うことはわかっていたけど、今日は植物灯やシャンデリアの光でいつもよりきらめいて見える気がして、この服がもっと好きになった。マスターのこだわりはこの場所を素敵に見せるだけじゃなく、訪れる人の気持ちにも素敵に作用する。
喫茶店に、よく自分のおじいちゃんやおばあちゃんを投影してしまう気がする。お店と彼らが同じような年代であるからなのか、醸し出す安心感が似ているからなのだろうか。喫茶店におじいちゃんおばあちゃんと一緒に行ったことはまだない。今度一緒に行ってみたら、また何か新しい昔の話が聞けるかもしれない。
住所:東京都江戸川区西小岩1-20-20
TEL:03-3657-5669
営業時間:平日8:30~17:00 土日8:30~20:00
無休(年始3日間は休み)