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東京喫茶部

2018.09.21

東京喫茶部「パーラー キムラヤ」

文/小谷実由

写真/島田大介

ノスタルジーが溢れている街、新橋。それは建物からも、夕方になると一日の労働を癒やすように飲み屋に吸い寄せられていくサラリーマンたちからも、そしてここからも溢れ出ている。新橋駅前ビルの地下に佇む喫茶店、パーラーキムラヤだ。

壁と椅子のデザインがここの一番好きなところ。ブルーとイエローの飾り壁と赤とクリーム色の革張りの椅子。一目惚れと言ってもいい、そして一生憧れの存在である。どれも落ち着いた色みでお互いを邪魔しない。53年の時を寄り添って共存している。若かったふたりが年月を経ても気持ちを1ミリも変えずに共にしているよう。そんな彼らをいつも目の当たりにするとため息と共に、お願いだからずっとそばにいてほしいと思う。

今日は水槽の横の席に座ってみる。水槽の中にも7年間生活を共にしている魚たちが2匹。そんな彼らを眺めつつ、クリームソーダとナポリタンという盆と正月が一緒に来たような、贅沢な注文をしてみる。
この2つを一気に頼むことはなんだか特別すぎてふだんはできないけど、今日はこの2つを一緒に眺めてみたかった。もちろん、眼福絶景。もう何年かはこんな大胆な頼み方はしないだろう。今日は、この喫茶店は、特別だ。

広くて大きい喫茶店が断然好きだった。人との距離が遠くて緊張しなくて楽だから。でもここに来てからは広ければ落ち着ける、そんな気持ちだけがいいとは思わなくなった。水槽から聞こえるポコポコした泡の音、日常の延長線上へ連れていくテレビの音、ナポリタンを待っている間に聞こえたマスターがフライパンをごろごろと転がす音などの生活音がとても心地いい。

去年つくった、喫茶店に着ていくためのワンピースを今日は着ている。実はこのワンピースのベージュとグリーンの配色を決める際、思い浮かべていたのはパーラーキムラヤだった。ここに来るときは少しおめかしをしていたい。気合が入ったおめかしじゃなくて、自分だけがなんだか嬉しくて1センチ宙に浮けそうなくらいの、さりげないおめかし。

ここでいくつのドラマが生まれたのか、そんなことを喫茶店でいつも思っている。それを最初に思ったのは、ここに来たときだったと思う。無意識にいつも私の頭の中にあるここは、私にとって初恋の喫茶店なのかもしれない。

パーラー キムラヤ
住所:東京都港区新橋2-20-15 新橋駅前ビル1号館 B1F
電話番号:03-3573-2156
営業時間:[月~金]7:30~22:00 [土]11:00~17:30
定休日:日、祝

小谷実由

モデル

1991年東京生まれ。14歳からモデルとして活動を始める。自分の好きなものを発信することが誰かの日々の小さなきっかけになることを願いながら、エッセイの執筆、ブランドとのコラボレーションなども取り組む。 猫と純喫茶が好き。通称・おみゆ
https://www.instagram.com/omiyuno

島田大介

映像作家/写真家

映像ディレクターとしてキャリアをスタート。数々のCM やMUSICVIDEO などを演出し、カンヌ広告祭をはじめ国内外数々の賞を受賞する。2018 年、代表を務めた映像制作会社コトリフィルムを解散。 現在は作家としての制作を中心に活動中。