幼い頃から、行ったことがある場所や通りすがっていた場所に知らぬ間に佇んでいるのが喫茶店。どうしてもっと早く気づかなかったのだろう、といつも思う。もし時間が巻き戻せたら、学生時代に喫茶店でアルバイトをしたいと切に願っている。小春日和の有楽町、今回訪れたのは東京交通会館の地下にある「ローヤル」。東京交通会館もまた、パスポートを作りに行く場所なだけだと学生の頃は思っていた。
今日のメインイベントは、ずっと気になっていたあのひとを目の前にする、ということであった。気になるあのひととは、次にローヤルに来たら注文しようと想いを寄せていたアプリコットパフェのこと。イチゴだとか、チョコバナナだとかは、いろんな喫茶店で見るパフェの主役たち。しかしここには、それと同じくらい堂々たる存在感で随分昔からアプリコットパフェがある。いつも店のショーケースの前を通るたび、私はなんとなく意識せずにはいられなかった。話題の中心にいる人よりも、それを眺めつつ寡黙に佇んでいる人のほうにいつも私は心惹かれてしまう。
朝一のローヤル。分厚いトーストのモーニングセットに後ろ髪を引かれつつ 、憧れのあのひとを呼んでもらう。ローヤルのパフェは作る人によってクリームの配置や形が違うらしい。本日のアプリコットパフェはスワさん作。華やか過ぎず、控えめなオレンジと真っ白の2トーン。アプリコットの甘酸っぱさと生クリームの絶妙なコンビネーションに感動しつつ、生クリームの下はヨーグルトとアプリコットのシロップになっていて春を通り越して初夏の気分。アプリコットパフェはやっぱり素敵なひとだった。
ローヤルには初めて行ったときに一目惚れした壁がある。それはお店に入って右の一番奥の部屋にある銅板製の半円幾何学模様の壁。部屋全体を覆っているのに眩しさよりも優しい光のようなものを感じるそれを私は愛してやまない。今日はこの壁に影響されて作ったシャツを着てきた。大好きな壁と一体化できてニヤリとなる。この柄がもっと普及したらいいのに、いや、そんなことになったら少し嫉妬しちゃうかもしれない、という堂々巡りのジレンマが生まれた。
この壁は定期的にお店の人たちによって綺麗に磨かれている。テーブルや赤いベロアの椅子、鏡たちもそう。50余年の時空を超えたこの空間はここを愛する人々によって今もまばゆく輝いている。
気が付けば2020年まであと2年というところまできた。東京オリンピックへ向けて土地がいろんな姿に変わっていく。止むを得ない理由で愛すべき場所がなくなることが日に日に増えてきた。ここもいつかそうなる日が来てしまうのだろうか、そんな寂しさを抱えながらいつもこの場所で惜しむような時間を過ごしている。
住所:東京都千代田区有楽町2-10-1 東京交通会館
TEL:03-3214-9043
営業時間:[月~金]8:00~19:30
[土日祝祭] 11:00~18:30
定休日:交通会館 休館日