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東京喫茶部

2017.11.21

東京喫茶部「喜蕾珈琲専門店」

文/小谷 実由

写真/島田 大介

シンガポールで真美珍茶室に出会ってから、海外に行くと日本にある純喫茶的な場所を訪れたいという気持ちが強くなった。今回は、台北にある「喜蕾珈琲専門店」へ。台北には珈琲のお店がたくさんあった。その中でもここは特に魅力的で、出発前から絶対に行くぞと意気込んでいた場所。

その日は朝ご飯に豆乳と揚げパンを食べに行ったけど、なんだか満腹にならないまま店を出た。さて今日はどこに行こうかとフラフラと歩いて大通りに出ると、黄色地に赤と青の文字で店名が大きく書かれた喜蕾珈琲専門店の看板が現れた。場所をまだちゃんと確認していなかった為の偶然の出会い。まるで、曲がり角から憧れのあの人が飛び出してきたかのよう。写真で何度も見たものが目の前に現れる、この感動は何度味わってもたまらない。

少しドキドキしながら早速入ってみる。日曜日の朝、少し遅めの朝食をとる夫婦、毎日のようにここで時間を過ごしているのではないかと思う親友のようなおじさん二人組。そんな光景はなんだか日本と変わらなくて、じんわり嬉しい気持ち。

お店に入って真っ先に目が釘付けになったのはチューリップ畑の大きな写真がプリントされた壁。赤と白の少し色褪せたチューリップたちが後ろからライトアップされて煌々としている、なんだか切なくて気持ちが青くなる。台湾映画を見たときに残る、なんとも言えない喉につかえるような甘酸っぱさ。そんな魅力的な思いを抱えさせるチューリップに一番近い席へ吸い寄せられるように座った。

そうだ、私はまだお腹が満ち足りていないのであった。メニューを見ると日本と同じようなモーニングセットがある!本日2度目の朝ごはんを注文。気になるネーミングのアイスクリームソーダも注文。きっとクリームソーダのことだとは思うけど、どんなクリームソーダが出てくるんだろう。

モーニングセットでやってきたのは9つに割れ目の入った、見慣れた厚さの少し小ぶりのトースト。なんだか電卓みたいでかわいい。いやビンゴかな、ビンゴにしてはマスが少ないか。バターがたっぷり染み込んだ優しい甘さのトースト、これでやっと私の朝ご飯はめでたくエンドロールへ。

そこで待っていたのはアイスクリームソーダ。透明なソーダにレモンとアイス、緑のプラスチックスプーンとオレンジ色のストローで健康的な印象のそれは、とてもオリエンタルでこれぞ台北クリームソーダという感じ。ソーダはスプライトのようなシトラス味でそこになぜか特別美味しく感じるバニラアイス。メロンソーダ味のクリームソーダばかり飲んでいた私にとって、爽やかすぎて無垢だった。見た目も味も、これはクリームソーダじゃなくてアイスクリームソーダだね、とやけに納得をしながらエンドロールのような静かでゆったりした時間は流れていく。

今日は豆乳の朝ごはんだ!と盛り上がっていたせいで、上下とも豆乳のようなベージュの服であった。喫茶店にはそこに合った服で、を心がけている私としてはちょっと悔しい気持ち。でも、今日みたいな起き抜けのようなゆるゆるとした格好で朝ごはんを食べに来るのも悪くない。ここの壁紙はピンクの花柄だし、切なく甘酸っぱいチューリップ畑も広がっているし、今回ばっかりは着飾ることはこの空間に任せよう。

満腹にならずにちょっと切ない気持ちから始まった私の台北の朝は、甘酸っぱさと爽やかな無垢の青い空間でより心臓をぎゅっとつかまれるような気持ちになった。一喜一憂していて恋しているみたいな朝だ。

喜蕾咖啡専門店
住所:104 台湾 台北市中山區長春路21號1樓
営業時間: 9:00~17:00

小谷実由

モデル

1991年東京生まれ。14歳からモデルとして活動を始める。自分の好きなものを発信することが誰かの日々の小さなきっかけになることを願いながら、エッセイの執筆、ブランドとのコラボレーションなども取り組む。 猫と純喫茶が好き。通称・おみゆ
https://www.instagram.com/omiyuno

島田大介

映像作家/写真家

映像ディレクターとしてキャリアをスタート。数々のCM やMUSICVIDEO などを演出し、カンヌ広告祭をはじめ国内外数々の賞を受賞する。2018 年、代表を務めた映像制作会社コトリフィルムを解散。 現在は作家としての制作を中心に活動中。