昨年より、『花椿』中国語版は中国国内15都市にて配布しています。『花椿』中国語版の制作にご協力いただいている、上海のクリエイター集団「文化力研究所」の代表で編集者の令狐磊(ロッキー・リアン)さんが、中国でいま注目のアートやカルチャーについてをマンスリーのレポートでお届けします!
コロナ禍で海外に買い物に出かけられなかった2020年。中国人の旅行先は東京、パリ、香港から上海、北京、成都に変わり、中国では今、ネットショップ市場が拡大すると同時に、リテールの現場も新たな局面を迎えています。例えばショッピングモール、北京の「SKP」は2020年度の売上高が175億元(約2800億円)、前年比15.13%増。中国の商業施設として最高売り上げを記録しました。
2020年の年末には「蔦屋書店」が杭州に続き、上海にもオープン。歴史的建造物を使った上海店は銀座蔦屋書店の如く、カルチャーやアート関連作品をメインに取り扱っています。以前はわざわざ東京まで買いに行っていた「DESCENTE BLANC」も北京の三里屯(サンリトン)に昨年10月にオープン。日本人建築家の長坂常による吊り棚式のミニマルな内装は、現代アートのインスタレーションのような雰囲気。これまでは海外に行かなければ訪れることができなかった店が続々と中国でオープンしています。
海外ブランドにのみならず、国内の店舗にも新世代スタイルを感じます。例えば北京の「SKP-S」と上海の「淮海TX」。「SKP」はもともと「新光天地」という名称の百貨店でスタートしましたが、その後「SKP」に名称を変更。2019年12月からは建国路を挟んだ向かい側に「SKP-S」という南館を増設し、さらなる個性を追求。オープン時には多くの大手ブランドが特別限定コレクションを販売し、実店舗ならではの力を見せつけました。
「SKP-S」の店舗デザインにはストーリー性があります。たとえば二階のSKP SELECTは火星博物館という名称。”火星への人類移住100年記念”がテーマで、すべての販売商品がこのテーマに基づいているのが特徴です。
一方、「淮海TX」の正式名称は「百聯TX淮海|YOUTH ENERGY CENTER」。この場所には1993年から2008年まで伊勢丹があり、その後は目立った商業施設はなく、上海の目抜き通りである淮海路におけるリテールの移り変わりがうかがえます。。「淮海TX」はアートをテーマとしたキュレーション型リテール”CURETAIL”(Curation for Retailの造語)を標榜。中国初の商業スペースよりもアート展示の方が多いショッピングモールで、2019年年末にオープンして以来、若者たちが集まるスポットとなっています。アイコン的な人物の店やさまざまなイベントもよく話題となり、中国でも大人気の香港出身のK-POPスター、ジャクソン・ワンが手掛けるブランド「TEAM WANG」が最近オープンし、開店時には大行列ができていました。
いまはコロナの影響で、多くの実店舗は現場でのショッピング体験とニッチなアイテムを探し求める女性消費者の心理に注意を払っています。誰もが海外に行くことができない状況下で、中国版インスタグラム「小紅書」などのSNSで発信される情報が、ニッチなカテゴリーのアイテムの販売を促進しています。
SNSの世界的な拡大に伴い、リテールデザインの方向性もよりグラフィカルに変化しています。杭州のデザイナー梅数植(メイシュウジ)がつくった小劇場「西劇 XIXI LIVE」のピクトグラムは、漢字の組み合わせによるユニークな視覚体験を楽しめます。「西劇 XIXI LIVE」は、演劇、映像、美食、マーケットが複合した建物で、その多機能性も新たなリテールの姿を実感させてくれます。
中国在住の日本人建築家・青山周平とカフェ「% ARABICA」とのコラボレーションは瞬く間にSNSで話題の店になりました。彼が最初にデザインした上海の旧フランス租界の建国西路店に加え、2020年には成都と重慶にもオープン。成都店は古民家を利用、重慶店は山の街をイメージした階段を採用したつくり。多くの若者を引き付けるための革新的な店舗デザインがより重視されているのです。
実店舗の意味を模索する新たな動きは教育の場にも見られます。同済大学のデザインカレッジでは「新しいリテール× 新しいライフスタイル」をテーマに、学生とカナダのコーヒーチェーン「Tim Hortons」が共同で、商業ブランドや商業空間のデザインに関する知識を集結させ、ブランドと未来のライフスタイルが生み出す創造性について研究しています。
実店舗の力に、中国は今やっと気づき始めたのかもしれません。