『花椿』2020年夏・秋号より、中国語版を刊行し、中国国内15都市にて配布しています。『花椿』中国語版の制作にご協力いただいている、上海のクリエイター集団「文化力研究所」の代表で編集者の令狐磊(ロッキー・リアン)さんが、中国でいま注目のアートやカルチャーについてをマンスリーのレポートでお届けします!
『花椿』中国語版が2020年春に創刊され、より多くの中国人が銀座への造詣を深めました。特に交差点にいる4人のモデルを空撮した写真は、銀座の交差点が僕にとって最初の東京の記憶だったことを思い出させました。クリーンな街並み、銀色に輝くネオン、老舗百貨店、近未来的な商業施設。特に数寄屋橋のX字型の横断歩道は鮮やかに目に映り、「これこそワールドクラスの交差点!」と思ったものです。
銀座や渋谷の交差点は規則正しい交通や周辺の建築物に加え、信号機の制御に伴う歩行者の流れもリズミカルで美しい景観です。そして不意に思いました。上海が世界に誇れる交差点はどこだろう?と。
流動人口の多さで言えば、南京東路(ナンジンドンルー)と河南中路(フーナンジョンルー)の交差点はまさに渋谷。大丸百貨店、HUAWEIビル、アップルの旗艦店が並んでいます。休日には過剰な人の流れを制御すべく、警官と兵士が群衆を分割するかの如く交通整理をしているのが印象的です。
銀座の数寄屋橋のようなX字型といえば、淮海中路(ワイハイジョンルー)と黄陂南路(ファンピーナンルー)の交差点。四つの角にはアップル、ティファニー、カルティエ、新天地広場があり、上海を代表する商業エリアとなっています。
上海には黄浦江(ファンプージャン)という川沿いの地形と歴史的な理由から5つや6つの道路が交わる交差点がいくつもあります。最近人気の「武康大楼」のある交差点では、淮海中路、天平路(ティエンビンルー)、余慶路(ユーチンルー)、興国路(ジングオルー)、武康路(ウーカンルー)が複雑に入り組み、初心者のドライバーはよく道を間違えてしまいます。
南京西路(ナンチンシールー)と石門一路(シメンイールー)の角には「STARBUCKS Reserve ROASTERY」ができて以来、インターナショナルな雰囲気になりました。「Lisson Gallery」は、ジュリアン・オピーのスクリーンアニメによる作品をこの街角に設置。「世界の主要都市でよく見られるこれらのイメージは、表象の性質や知覚表現を探る作家自身のこだわりを反映しています」と、ギャラリーのオーナー。3つのキャラクターはロンドンやニューヨークの街でも休みなく歩いているかもしれませんが、今ここ上海の交差点でも多くの人の目を引きつけています。
僕が最近一番好きなのは襄陽北路(シャンヤンベイルー)と新楽路(シンラールー)の交差点。新聞をテーマにしたカフェ「PARAS」はテーブルがなく、古新聞を積み上げたスツールだけ。コーヒーを飲む人に最新の「New York Times」「Financial Times」や地元の新聞を提供しています。隣は噴水のあるフランス式の公園。斜め向かいには1930年代に上海に住んでいたロシア人が建てた古いロシア正教の教会があり、カフェの外はパリのような雰囲気です。
先日ここでコーヒーを飲んでいたとき、驚いたことに、交差点の上の電線をリスが走り、道路を横切って電柱の後ろに消えていきました。上海に残る古い電線が、都会の野生動物たちにとっては信号など関係なくマイペースで道路を横断するのに理想的だとは想像もしていませんでした。
『アメリカ大都市の死と生』を書いたジェイン・ジェイコブズによると、よい都市には自発的で自由な“バレエのステップ”があるそうです。それは、一人ひとりの踊り手が持ち前のパートを担い、それぞれの担い手たちがお互いに共鳴し合い、秩序だった全体を構成するような複雑かつ即興的なバレエのような生活リズムを持つ、そんな多様な街路文化を指しています。また、長く閉塞感のある大通りではなく、短い通りが小刻みに続き、新旧の建物がバランスよく融合している、とも書いています。
現在、都市再生の大きな変化を迎えている上海の各地区では、それらの要素が街角に浮き上がり、人々に再認識されるのを待っているようにも見えます。あるいは、あの小さなリスのように、すぐに視界から消えてしまうのかもしれませんが。