前の記事

Rocky’s report from Shanghai

Vol.5 上海が現代アートの街になった理由。

2020.11.20

文/令狐磊 Rocky Liang

翻訳/サウザー美帆

『花椿』2020年夏・秋号より、中国語版を刊行し、中国国内15都市にて配布しています。『花椿』中国語版の制作にご協力いただいている、上海のクリエイター集団「文化力研究所」の代表で編集者の令狐磊(ロッキー・リアン)さんが、中国でいま注目のアートやカルチャーについてをマンスリーのレポートでお届けします!

 

West Bund Art Center. photo by Tian Fangfang

続々と新しいミュージアムがオープンする上海。

 毎年恒例の11月の「上海アートウィーク」では、アートフェアや現代アートの展覧会が目白押し。上海が今のように中国で最も多くの現代アート展が開催される都市となったのは、2010年の上海万博前後に、西岸というかつて工業地帯だったウォーターフロントエリアの古い産業用建物の多くが、芸術文化施設として再整備されたことによるものです。
 石炭積み下ろし場が残された埠頭に生まれた龍美術館(Long Museum)は、その象徴のひとつともいえるでしょう。
 いくつもの石炭漏斗(じょうご)が残っていた埠頭を、当初、上海市政府はクルーズ船のビジターセンターにしようと計画していましたが、大富豪の実業家・劉益謙(リュウ・イーチェン)と彼の妻でアートコレクターの王薇(ワン・ウェイ)がこの場所を借り受け、プライベートミュージアムを建設することにしたのです。

Long Museum in Cherry blossom photo by Tian Fangfang
Long Museum photo by Tian Fangfang

 設計を手掛けたのは上海出身の建築家・柳亦春(リュウ・イーチュン)。産業遺構と開放的なコンクリートの大空間という特性が余すことなく発揮されたデザインは、現代アートの理想の展示空間となり、これまでにオラファー・エリアソン、ジェームズ・タレル、ルイーズ・ブルジョワなどの名だたるアーティストの展覧会が開催されています。
 リュウ・イーチュンは設計時のイメージビジュアル図にルイーズ・ブルジョワの大蜘蛛をCGで入れていたそうで、まさか本当にその展示が行われるとは思ってもいなかったとのこと。この龍美術館を皮切りに、西岸の巨大な旧工業用地が、次々とアートスペースとして生まれ変わっていきました。

Long Museum photo by Tian Fangfang

 アートフェア「West Bund Art&Design」の会場でもある西岸芸術中心(West Bund Art Center)余徳耀美術館(Yuz Museum)は元航空機の格納庫。上海当代芸術博物館(PSA)
は旧発電所。上海油罐芸術中心(TANK Shanghai)
は元航空会社のオイルタンク。
 昨年、パリのポンピドゥーセンターの別館としてオープンした西岸美術館(West Bund Museum)は、以前は航空機の整備場。リノベーションを手掛けたのはデビッド・チッパーフィールド。年間を通してteamLabの作品を展示するEPSON無界美術館(teamLab Borderless Shanghai)も同エリア内にあります。

West Bund Art Center. photo by Tian Fangfang
Tank Shanghai
11月11日~15日に開催されたWEST Bund Art & Design2020には今年もたくさんの人が来場した。 photo by Tian Fangfang
West Bund Art & Design2020 photo by Tian Fangfang

 そして10月には妹島和世(SANAA)の中国初プロジェクトでもある7棟の複合ビル西岸藝島(ART tower)が完成したばかり。オープニング展示にはジェフ・クーンズ、ジュリアン・オピー、草間彌生、名和晃平などの作品が飾られ、施設内には世界の文化産業と美術教育市場を支援する上海国際芸術貿易センターも併設。
 現在は上海撮影芸術中心(Shanghai Center of Photography)でのアレック・ソス展、桟橋に隣接する藝倉美術館(Modern Art Museum Shanghai)でのフィリップ・コルバート展なども話題です。

 北京の有名なアートエリア798は古い工場をリノベーションしただけですが、上海の西岸は土地競売収入約300億元(日本円で約4800億円)の一部を公共スペースや文化施設の建設にあて、同時にAIテックシティ構想も推進することで、アート&カルチャー、テクノロジー、不動産開発が融合するユニークなエリアとなりました。リュウ・イーチュンは、「西岸は文化事業を通して地域再生を果たした数少ない成功例のひとつ」と語っています。

SANAAの中国での初のプロジェクトArt Towerが10月にオープン

 もちろん西岸以外にも、上海の様々なエリアに美術館やギャラリーは多数点在していますが、SNSが主流の社会において、視覚的にも魅力的なアート展が若者の日常生活に欠かせないものとなったこともアート鑑賞が広がった大きな要因かもしれません。
 9月からPSAで行われているデザインユニットM/M(paris)の中国初の展覧会も参加型のインスタレーションがメインで、現代の若者の欲求に即したスタイルが主流になっています。
 こういった展覧会に特に多く訪れるのはSNSを駆使する若い女性たち。上海は文化的消費の市場が中国で最も大きいとも言われていますが、主なアート展のチケットが120~150元(約1900~2400円)もすることを考えると、メイン購買層の彼女たちの影響力も計り知れません。

 昨年から今年にかけて、ボブ・ディランの中国初の大規模な回顧展が藝倉美術館(Modern Art Museum Shanghai)で開催され、その後、北京の今日美術館(Today Art Museum)に巡回したことも、上海が中国における現代アートの中心都市になったことを象徴しているような気がします。

MM(paris)展  at PSA
MM(paris)展 at PSA

クリエイターの紹介

令狐磊 Rocky Liang

クリエイティブディレクター/編集者

『生活月刊LIFE MAGAZINE』など数々のカルチャー誌の編集長を歴任。現在は上海『衡山・和集』『方所 上海浦東店』など文化発信地的な書店のクリエイティブディレクターも務める。同時に文化とビジネスの新しいスタイルの融合を目指す文化力研究所の所長として『花椿』中国版の制作を指揮するなど多方面で活躍中。

サウザー美帆

編集者/翻訳者

元『エスクァイア日本版』副編集長。上海在住を経て、現在は東京を拠点に日中両国のメディアの仕事に従事。著書に日本の伝統工芸を紹介する『誠実的手芸(誠実な手仕事)』(中国語、上海浦睿文化発行)。京都青艸堂の共同設立者として『你好小朋友―中国の子供達』復刻版の出版などにも携わる。

もっとみる

こちらもおすすめ