次の記事 前の記事

Rocky’s report from Shanghai

2020.10.21

Vol.4 上海の南青山、安福路界隈を巡る。

文/令狐磊 Rocky Liang

翻訳/サウザー美帆

『花椿』2020年夏・秋号より、中国語版を刊行し、中国国内15都市にて配布をスタートさせました。『花椿』中国語版の制作にご協力いただいている、上海のクリエイター集団「文化力研究所」の代表で編集者の令狐磊(ロッキー・リアン)さんが、中国でいま注目のアートやカルチャーについてをマンスリーのレポートでお届けします!

 

上海話劇芸術中心 photo by Tian Fanfan

文化的な香りと情緒が漂う、人気の街を歩く。

 通常なら年に10回は東京に行く僕ですが、コロナのせいで1年近く東京に行けない状況です。そんな中で特に恋しいのが南青山界隈。華やかな表参道や隠れ家のような根津美術館を有し、著名ブランドの旗艦店が立ち並ぶ一方で、見たことのない個性的なブランドも数多く、角を曲がれば新しい店や小さなカフェやギャラリーを見つけられる。渋谷や新宿のような大規模な商業地区にはない、街歩きを楽しめる魅力があります。

 では南青山のような場所を中国で探すとなると、どこになるでしょう? 答えは上海の安福路(アンフールー)、烏魯木斉南路(ウルムチナンルー)、武康路(ウーカンルー)、復興西路(フーシンシールー)を含む一帯です。7年前、旧フランス租界地の中心でもあるこのエリアをメインとして、上海市政府は「衡山路―復興路 歴史文化風貌区」を設定しましたが、それ以前から高級フレンチレストランやデザイン性の高いカフェなどが続々とオープンしていました。

安福路 photo by Tian Fanfan

 この辺りは外国人が上海に移住した最初のエリアでもあり、僕の知っているフランスのファッションブランドの中国人代表の多くがこの界隈に住んでいます。中でも安福路は、海外の先駆的な戯曲やオリジナルの戯曲を年間を通して上演し、中国の演劇の聖地ともなっている「上海話劇芸術中心Shanghai Dramatic Arts Centre」があることから、文芸的な雰囲気が漂うストリートとして以前から人気がありました。

マリエンバートのテラス photo by Peter Peng

 その安福路で文芸関係者に愛されているカフェ「Marienbad(マリエンバート)」が、今年の9月に閉店するという話を聞いた時はとても残念に思いました。店名の由来はフランス映画の名作で、小説家アラン・ロブ=グリエの文芸作品でもある『去年マリエンバートで(L'Année dernière à Marienbad)』。2005年12月に開店して以来、オーナーの陸暁逊(ルー・シャオシュン)の元には、作家、アーティスト、メディア関係者などがいつも集い、パリの街角のようなテラス席で人々は上海文芸地区の風情を愛で、観劇を堪能した人々は、その後、劇場の斜め前にあるこの「マリエンバート」で心地よい夜風を感じながらお酒を楽しんでいました。

Brandy Melville入口 photo by Tian Fanfan
HARMAY入口 photo by Tian Fanfan
HARMAY店内 photo by Tian Fanfan

 その後、通りを挟んだ向かい側にNeri & Hu Architectsが手がけたクリエイティブスペース「BASE」が建ち、そこに人気のライフスタイルブランド「野獣派Beast」が旗艦店とオフィスを置いたことで、おしゃれな若者が一気に増え、欧風スタイルとローカル風情が混在するこのエリアは、ここ数年で写真映えのする"ネットで話題の場所”になりました。
 人気のアメリカブランドの「Brandy Melville」、日本のD&DEPARTMENTのポップアップストアなどを展開するエコデザインショップ「Klee Klee」、安藤忠雄風のコンクリートの打ちっ放しとIKEA風大型倉庫スタイルが融合した空間で輸入美容ケア製品を販売する「話梅HARMAY」などは、週末は人で溢れています。
 僕は海外あるいは地方から上海に来た友人を連れて行くときには、以前からこのエリアを第一候補にしています。プラタナス並木や歴史的な欧風建築の中に上海の奥深い魅力が隠されていて、芸術的でアバンギャルドな雰囲気を保ちながら商業エリアとして急速に変貌を遂げている様子に、ふと南青山的な空気を感じることがあります。
 前述の「マリエンバート」のルー氏は、安福路界隈がネットで話題のエリアに変わったことを笑いながらこう語っていました。「訪れるべき場所がいっぱいあるパリの中心地のようになったね。でもちょっと人が多過ぎるかな」
 その後、嬉しいことに「マリエンバート」はテナントオーナーと契約更新の交渉を経て、営業が再開されることになりました。安福路の文芸風情を漂わすランドマークが消えないことを願っています。

安福路のカフェ photo by Peter Peng
夜の旧フランス租界 photo by Peter Peng
≪Rocky’s Recommended spot≫

上海話劇芸術中心 Shanghai Dramatic Arts Centre
1995年創立。客席520の劇場。2019年にリノベーションしたばかり。「オペラ座の怪人」という名のカフェも併設。
Address: 安福路288号

胶囊画廊 CAPSULE SHANGHAI
古い住宅街にある隠れ家的ギャラリー。実験的な現代アート展が行われている。
Address: 安福路275弄16号1楼
https://capsuleshanghai.com/

BANK Gallery
外灘の銀行ビルから安福路に4年前に移転してきた。フランス人のギャラリー。
Address: 安福路298弄2号地下室
http://www.bankmabsociety.com/Portal/

RAC Coffee
住宅風の建物の中にあるフレンチカフェ。スイーツやアルコールも楽しめる。
Address: 安福路322号1幢

OHA EATERY
全席カウンター。創作中華料理とオーガニックワインのペアリングが楽しめる。
Address: 安福路23号
@ohaeatery

多抓魚書店
中国で最も人気のオンライン古書店が初の実体店を年内に上海にオープン予定。カフェ併設。古着も扱う。
Address: 安福路300号
https://www.duozhuayu.com/