『花椿』2020年夏・秋号より、中国語版を刊行し、中国国内15都市にて配布をスタートさせました。『花椿』中国語版の制作にご協力いただいている、上海のクリエイター集団「文化力研究所」の代表で編集者の令狐磊(ロッキー・リアン)さんが、中国でいま注目のアートやカルチャーについてをマンスリーのレポートでお届けします!
家族のようなチームワークで才能溢れる女性たちが活躍する場。
9月4日から3日間開催された中国アートブックフェア「art book in China」(通称abC)の上海展は、前売りチケットが7500枚以上売れ、3日間で1万人以上来場という大盛況。『花椿』中国語版も3日間で3000部を配布。これはアートフェアにおけるひとつの雑誌の配布数の記録にもなりました。
このabCは、創設者のジョウ・ユエ(周玥)が2015年9月に「DREAMER」という名称で始めたアートブックフェアが起点となっています。7年前、彼女が本の制作者としてニューヨークのアートブックフェアに出展し、自由に自分の出版物を宣伝するクリエイティブなスタイルに触れたことがきっかけでした。「始めるのは簡単。中国ではまだ誰もやってなかったから。じゃあ私たちがやればいいじゃないって思っただけ」とジョウ・ユエ。
その後、アートエディターだった友人のザオ・モンシャ(趙夢莎)がパートナーとなり、2018年から名称をabCとし、正式にアートブック出版機構を設立。二人はフェアの実施だけにとどまらず、SNSのオフィシャルアカウントで海外のニュースを翻訳して幅広く発信。彼女たち周辺の人物への取材も行い、独立出版を行う人たちの発言の場としての役割も果たすようになりました。また、Art Book in China Archive(中国アート出版書庫)の設立も計画。中国におけるアートブック出版の歴史に関連する学術分野の研究への協力を行う一方で、2020年からはabCアートブック賞も開始。「中国でのアートブック出版制作の環境を一歩一歩よくしていきたい」。それが彼女たちの目標です。
僕は2015年当初から、彼女たちの若さ、クリエイティビティ、行動力に驚かされていて、またこの5年間ずっと、運営チームがすべて女性だけで構成されていることにも注目しています。このことについて、ジョウ・ユエはこう語っています。
「女性は敏感な部分と柔軟な部分をバランスよく両立しています。だからコミュニケーションもスムーズで、気を使うことなく、共通の理解に達することができます。このチームで一緒に仕事をすると楽しい家族のようだし、才能溢れる女性たちと仕事ができるのは誇りでもある。みんな楽観的で気力に満ち溢れ、プロフェッショナルでたくましい。ここに至る背景はそれぞれ違うけど、アートブックに対する純粋な情熱は同じ。以前はボランティアで参加していた人もいて、みんなで一緒に成長して現在に至っているのは本当に素晴らしいこと」
アートブックフェアの現場にいると、女性のクリエイターや来場者がとても目立ち、実際の集計でも女性来場者が72%、年齢は26〜35歳が46%という数字が出ています。「ここに来る女性は一見スタイルは違っても、似たような雰囲気を持っている。みんな自信と活力に溢れ輝いている」とは、来場者の一人で、イラストや漫画、デザインが好きという20歳くらいの女性の発言。また、人気作家のチェン・チーラン(沈奇嵐)はこう語っていました。「上海中のユニークな女の子たちがみんなここに集まってるみたいね」
中国で、このようなインディペンデントなアートブックフェアが女性主体で行われていることは、新時代到来のひとつの証明とも言えます。実際、デザイン、イラストレーション、映像アートなどの世界における女性の地位は男性に劣ることなく、彼女たちのようなコミュニティは増加傾向にあって、クリエイティブな雰囲気を社会全体にもたらしています。
ジョウ・ユエたちは、自分たちのブランド力とその影響力を通して、より利益をあげ、より健全な組織を作り上げていきたいと前向きな姿勢を見せていました。
「コロナウイルスは世界の政治、また個人の生存にまで衝撃を与えました。このような過渡期だからこそ、私たちはこの半年間、絶え間なく自分たちの仕事の方向性を見つめてきました。より多くのキュレーションやバイリンガル誌の発行は、中国のクリエイターたちが国際的な対話に参加するのに役立つでしょう。“時差”の遅れによって引き起こされる創作水準のギャップを、私たちは埋めていきたいのです」
2015年に設立。中国国内のアーティストの本や独立出版物、世界の優れた出版社やアートブック関連の組織などを紹介し、多国間対話を促進することが目的。アーティストの本の展示や独立出版物の展示においては、中国で最も認知度が高く、毎年北京と上海で開催。現代美術、デザイン、出版の各分野に大きな影響力をもち、世界各国から出版社、メディアプラットフォーム、来場者を毎年多数迎えている。
*「art book in China」について