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Rocky’s report from Shanghai

中国のいま注目のアート&カルチャー【連載】『Rocky’s report from Shanghai』Vol.2

2020.08.28

文/令狐磊 Rocky Liang

翻訳/サウザー美帆

『花椿』2020年夏・秋号より、中国語版を刊行し、中国国内15都市にて配布をスタートさせました。『花椿』中国語版の制作にご協力いただいている、上海のクリエイター集団「文化力研究所」の代表で編集者の令狐磊(ロッキー・リアン)さんによる、中国でいま注目のアートやカルチャーについてをマンスリーのレポートでお届けします!

 

いま、何が必要なのか? コロナ禍に立ち向かう中国の新世代プロダクトデザイナーのプロジェクトが始動。

 新型コロナウイルスが発生して以来、中国では政府の公共衛生政策のもと、人々のウイルスに抗する共通の意識が形成され、衛生問題は以前にも増して大きな社会的関心事となっています。そんななか、新世代のプロダクトデザイナーたちによる「創造治癒Create Cures」というプロジェクトが注目を集めています。

 このプロジェクトは今年3月に、プロダクトデザイナーの周宸宸(フランク・チョウ)と陳旻(チェン・ミン)によってはじめられたものです。彼らは毎年ミラノサローネに参加していましたが、今年はコロナ禍で中止。イタリアを始め欧州のデザイナーの友人たちを心配し、中国から海外の友人たちにマスクを送るなどして交流を続けていました。
 そこで彼らが立ち上げたのが「創造治癒Create Cures」。その名の通り「治癒を創造する」ことをテーマに、デザイナーたちから寄せられたアイデアをインターネット上のプラットフォームで公開しています。彼らの交友関係の中から多くの海外デザイナーも参加。中国のみならずイギリス、イタリア、オランダ、ドイツ、カナダ、フランス、日本などの21のデザイナーやデザインチームによる提案が行われ、プロダクツの種類も家電、ファッション、衛生用品、オフィス空間、家具など多岐にわたっています。

ELBOW SOCK by RAW COLOR

 このプロジェクトをはじめるにあたり、フランク・チョウはこのように発信しています。「一人の一般人として、このコロナ禍が早く過ぎ去ることを信じています。幸運なことに、私たちの大多数は比較的安全な状況下で、社会の混乱や人間性の喪失、現代社会の脆弱性などを肌で感じています。実際、私たちに何かを大きく変える能力はありませんが、コロナ禍は健康と愛をいっそう大切にすることを私たちにうながしてくれました」

 このような時期だからこそ、デザイナーはデザインとは何かを改めて考え、コロナ禍によって生じたあらゆる問題に向き合い、デザインによる問題解決のアイデアを提出するべきだ、と彼は考えたのです。
 中国の若いデザイナーの多くは1980年代生まれで、彼らの世代特有のグローバルな視点から、今回のような使命感に溢れたプロジェクトが生まれたことはとても素晴らしいことと言えます。同時に、世界の製造工場であり世界最大のマーケットを持つ国のデザイナーとして、彼らが今後、世界でどのような役割を果たしていくのか、という点についても想いを巡らせてしまいます。

DISINFECTANT GLOVE-WIPES by CHEN FURONG

 独立系デザイナーとも称されるフランク・チョウは、金属構造に生地を取り付けた折りたたみ式スクリーン「Ping Screen」で、サローネサテリテのSpecial Mentionを受賞。チェン・ミンは人・材質・家具とのインタラクティブや、座るという行為の新たな概念を提示した「杭州凳」でLoewe Crafts Prize2018のファイナリストに選出。そんな彼らが選んだデザイナーたちの作品は、コンテンポラリーで今の時代に相応しいものばかりです。

Ping Screen by FRANCK CHOU
杭州凳 by CHEN MIN

 十分な手洗い時間に合わせて色が変わるハンドソープ。玄関に置いて鍵などの持ち物を紫外線で消毒できるドアライト。コロナ対策に必要なマスクや消毒液などを収納できる便利なハンディカプセル。安全性の高いシルクを3層に重ねた生地を使用した保護機能をもつスカーフ。建築家の孫大勇がデザインした、バットマンのようなデザインのモバイルシールドは日本のニュース番組でも紹介され、このデザインプロジェクトはさらに多くの人に知られることになりました。

TIME-CHANGING HANDSANITIZER by PINO WANG+FRANK CHOU
HAND CAPSULE by KIRAN ZHU
POCKET UV by DAN TOMIMATSU
BE A BATMEN by SUN DAYONG

「創造治癒Create Cures」の新たなデザイン案は、次回は9月下旬に開催される「Design China Beijing」で発表される予定です。公衆衛生デザインへの彼らの取り組みがさらに進歩し、このことが人々の健康の改善と、世界規模で発生したコロナ禍の対応にも大きなメリットをもたらすことを期待しています。

 

創造治癒Create Cures
中国のデザイナーたちによる公益プロジェクト。デザインで公共衛生の推進をうながすことが主旨。Create CuresはCCとも称される。CCは医療の現場でよく使われる計量単位でもあり、みんなが少しずつ力を出し、少しの光を発し、それがよい未来の始まりとなるように、という願いが込められている
https://www.create-cures.com/
周宸宸 (フランク・チョウ)
プロダクトデザイナー。2012年にFrank Chou Design Studioを設立。独特かつ客観的な視点で中国のプロダクトデザイン界を牽引。HC28、良辰、梵几などのブランドのデザイナーとしても活躍。ミラノサローネの「Salone Satellite Award」、パリのメゾン・エ・オブジェの「Rising Talent Awards China」などを受賞。また「Design Shanghai」のTalents区のキュレーションも担当。公益プロジェクト「創造治癒Create Cures」の発起人も務める。
陳旻(チェン・ミン)
プロダクトデザイナー。オランダの名門デザインアカデミー・アイントホーフェンを卒業。5ヶ国語を話し、SWAROVSKI、NIKE、Starbucks、Veneta Cucine、de Sedeなどのデザインも手掛ける。ミラノサローネには10年連続で招聘。「Loewe Crafts Prize 2018」のファイナリストにも選ばれ、『ニューヨークタイムズ』や『ICON』などの海外メディアでも中国の最も才能あるデザイナーとして紹介されている。「Design Shanghai」のアレンジメントデザイン区やNeobjectプロジェクトのキュレーションも担当。公益プロジェクト「創造治癒Create Cures」の共同発起人も務める。

クリエイターの紹介

令狐磊 Rocky Liang

クリエイティブディレクター/編集者

『生活月刊LIFE MAGAZINE』など数々のカルチャー誌の編集長を歴任。現在は上海『衡山・和集』『方所 上海浦東店』など文化発信地的な書店のクリエイティブディレクターも務める。同時に文化とビジネスの新しいスタイルの融合を目指す文化力研究所の所長として『花椿』中国版の制作を指揮するなど多方面で活躍中。

サウザー美帆

編集者/翻訳者

元『エスクァイア日本版』副編集長。上海在住を経て、現在は東京を拠点に日中両国のメディアの仕事に従事。著書に日本の伝統工芸を紹介する『誠実的手芸(誠実な手仕事)』(中国語、上海浦睿文化発行)。京都青艸堂の共同設立者として『你好小朋友―中国の子供達』復刻版の出版などにも携わる。

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