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Rocky’s report from Shanghai

2024.06.21

Vol.48 Light, Heat, Power! 上海のナイトライフに宿るエナジー

文/令狐磊 Rocky Liang

翻訳/サウザー美帆

 上海はGMT(グリニッジ標準時)+8に位置しますが、いつも夜が早く来るように感じます。冬なら午後5時にはすでに夜。上海は他の都市よりも夜が長く感じる都市なのかもしれません。

 1930年代、作家の茅盾(マオ・ドゥン)は名著『子夜(真夜中)』このような記述をしています。
「たった今、太陽が地平線に沈んだ。柔らかな風が顔に触れて少しくすぐったい。蘇州河の濁った水は輝く緑色に変わり、静かに西へと流れていく。……西側に目をやると、一軒の洋館の屋上に高々と設置された巨大なネオン広告が、炎のような赤い光と青い燐のような緑の光を放っているのに驚かされた。Light, Heat, Power!」
面白いと思うのは、こうした情景が90年後の今も依然として上海の夜の風景であることです。

 復興公園に昨年オープンした複合商業施設「INS新楽園」のナイトライフ・フェスティバル開幕の日に、上海の華やかな夜を実感しました。今年のフェスティバルは6月から9月まで夏の全期間を通して続きます。中国で最もナイトライフが充実する都市として、上海は市政府の呼びかけのもと、その魅力をさらに発揮しています。

 ライブハウスや体験型レストランなどを有する復興公園には、かつては上海初の量販式KTVがありました。周辺には「Park97」「Muse」「Richy」など上海で最も華やかなクラブがあり、2000年代以降に上海を訪れた外国人ならみんな、これらの場所を知っていたと思います。

 では今宵は、どのような夜のスポットがおすすめでしょうか?

INS新楽園
ナイトライフ・フェスティバル

 僕が思い描く上海の夜とは、ドラマ『繁花』に出てくる進賢路の小さなレストランをモデルにした「夜東京」(Vol.43参照)。映画『愛情神話』(Vol.22参照)に出てくる旧式アパートのプライベートシアターのもとで繰り広げられる文化人の生活。蘇州河の乍浦路橋の下で揺れるネオンの色彩。浦東のリッツ・カールトン屋上のレストラン&バー「Flair」から見える東方明珠塔と摩天楼群。復興中路の雑貨店の裏の隠れ家バー「Speak Low」。毎晩9時まで営業している「浦東美術館」と11時まで営業している現代写真美術館の「Fotografiska」(Vol.41参照)。あるホテル内で上演される「不眠之夜Sleep No More」という没入型演劇。一晩に14の異なる演劇が上演される「亜州大厦」。日本人バーテンダー後閑信吾がつくる世界トップクラスのカクテル。佐々悠樹と佐々雅樹の兄弟がまるで東京の高級料理店にいるような体験を提供してくれる華山路の懐石料理店「佐々」。そしてインタラクティブかつ光と影の食卓が楽しい上海のミシュラン三つ星レストラン「Ultraviolet by Paul Pairet」など。

Flair bar
Speak Low

 中国の他の都市、例えば辛い火鍋で有名な重慶や、若者向けのエンターテインメントに溢れた長沙などと比べると、上海の夜は、「佐々」の漆の器に描かれた上海のようにとてもシックで、また多様性があるようにも思えます。

佐々
漆器に描かれた夜の上海

 コンビニスタイルのバー「公路商店」(Vol.25Vol.25参照)やカジュアルな「跳海」などが常に若者で溢れている様子を見ていると、以前、イタリアのフェラーリの親会社の幹部が言ったことを思い出します。彼は上海とニューヨークを愛し、この2つの都市はまるで車のエンジンのようにエネルギーに満ちている、と語りました。

 煌びやかなデジタルサイネージ、美食、美酒、音楽、アートなどに触れながら、上海の夜を注意深く観察すれば、公園を訪れる人々から、その狭間を行き交う野生の動物まで、夜の闇に息づく都市のエネルギーを実感することができます。

公路商店

 さて、2020年8月からの4年間、このコラムで「花椿」の読者の方々と、上海が21世紀の国際都市への道を歩む重要な時期を共に見つめることができたのは、僕にとって本当に幸せなことでした。アーティスト、建築家、ファッションデザイナー、作家、ダンサー、そしてさまざまなブランドなど、彼らがこの街で競い合う情熱と創造力こそが上海の魅力の源。市街地と黄浦江の間で潮が満ち引きするように時は流れ、誰もがその流れに取り残されることを恐れているかもしれません。しかし、常にその波間を進む新しい冒険者で溢れている都市の姿、彼らが創造する物語は、常に伝えるべき価値があるものだと信じています。

上海ナイトライフに関するデータ

経済誌『第一財経』が運営する都市研究所は、人の移動、バーの数、照明使用度、映画上映、娯楽施設利用度、公共交通の6つを焦点に夜間における活性度を測った「2024年中国都市夜経済指数」を発表。中国の337の都市の夜間の活力を総合的に評価し、その結果トップに輝いたのは上海でした。
2023年末のデータでは、上海には2810軒のバー、140軒以上のライブハウスがあり、2023年の1年間で29.52万回の映画の夜間上映がありました。もちろんこれらは全国で最多。同時に2023年には22時以降も運行する地下鉄の駅が405あり、前年に比べて約30駅増加。これも全国1位です。夜間の人の移動と照明使用度でも、上海はここ数年間連続して全国トップを維持しています。2022年の統計で、上海の夜間消費総額は4918億元(約10兆3278億円)に達しました。

令狐磊 Rocky Liang

クリエイティブディレクター/編集者

上海の出版社Modern Media社が発行するカルチャー誌『生活LIFE MAGAZINE』『週末画報Modern Weekly』などのクリエイティブディレクターを務める。同時に文化とビジネスの新しいスタイルの融合を目指す文化力研究所の所長として『花椿』中国版の制作を指揮するなど多方面で活躍中。

サウザー美帆

編集者/翻訳者

元『エスクァイア日本版』副編集長。上海在住を経て、現在は東京を拠点に日中両国のメディアの仕事に従事。著書に日本の伝統工芸を紹介する『誠実的手芸(誠実な手仕事)』『造物的温度(ものづくりの温度)』(中国語、上海浦睿文化発行)。京都青艸堂の共同設立者として中国向け書籍の出版制作にも携わる。