Rocky’s report from Shanghai
2024.02.27
Vol.44 恋人たちに教えたい上海のロマンチックスポット
文/令狐磊 Rocky Liang
翻訳/サウザー美帆
Vol.43ご紹介したウォン・カーウァイ監督によるテレビドラマ『繁花Blossoms Shanghai』にちなんで、今回は上海のロマンチックスポットをお届けします。
『繁花』では主人公の口から次のような台詞が語られます。
「子供の頃、ベティと一緒に屋根に登り、雲や木々を眺めたことがある」
これは原作小説の次のくだりから来たものです。
「二人が屋根に登ると、瓦が暖かかった。目の前には盧湾区の半分が広がっていた。眼下には香山路、東には復興公園、公園の北側には祖父の住む洋館。その西向かいの皋蘭路にニコライ聖堂があった」
1930年代にロシア人が建てたそのロシア正教会の聖堂は、今は詩集・散文・絵本をメインとしたセレクト書店「思南書局・詩歌店」となっていて、文化財建築でもある聖堂の面影を残しながら、当時のフレスコ画を復元した壁画などもあって、美しい空間デザインそのものも楽しめます。宮沢賢治や高村光太郎の詩集などを手に取ってみるのもいいでしょう。
この聖堂のある皋蘭路はわずか278メートルしかなく、愛の言葉を語るには短すぎますが、すぐ近くにはカフェ併設のアンティークグッズを扱う「骨董花園」があります。そのレトロな雰囲気の中で、恋人たちは100年前にタイムトリップをしたような感覚を味わえます。
小説『繁花』では、次のような文章が続きます。
「ベティは小さな体をアーバオにしっかりと密着させ、髪を舞い上がらせている。強い風が吹き、黄浦江から汽笛の音が聞こえ、そのゆったりした音色が、少年の心を慰めていた」
このシーンは黄浦江に沿って築かれた上海という都市を、とてもロマンチックに描写しています。
一方、『繁花』の著者である金宇澄(ジン・ユーチェン)は、こんなことを語っていたことがあります。「上海の若者たちは、どこで恋に落ちるのか。最も一般的なのは淮海路を歩くこと。東から西へ、そして西から東へ一周すると恋愛は成就する」
昔から淮海路は上海で最もにぎやかながら、静かなカフェもたくさんあります。淮海路沿いにあるオークラガーデンホテルには、約3万平方メートルの庭園が広がり、その中央広場は上海のカップルたちにとって、ウェディングの聖地でもあります。
しかし淮海路のようなメインストリートではなく、プラタナス並木が美しい小路にこそ、上海らしいロマンスが溢れているようにも思います。車も人も少なく、恋人たちが肩を寄せ合って歩くのにも相応しい雰囲気の小路が、上海には無数にあります。
僕がおすすめする小路といえば、汾陽路、岳陽路、建国中路、永嘉路。その4つの路の交差点にある小さな公園には、ロシアのロマン派詩人プーシキンの像があります。これは1937年にプーシキン没後100周年を記念して、上海に居住していた旧ソ連人が資金を集めて建てたもの。この界隈はポエティックな雰囲気で、一人で散歩するのも楽しいです。
さて、上海が舞台のラブストーリーといえば、現在続編を制作中の2021年公開の映画『愛情神話』(このコラムのVol.22で紹介)。そして「繁花」も新たな上海ラブストーリーのクラシックとなると思いますが、実は『繁花』には、日本のドラマ『東京ラブストーリー』の主題歌だった「ラブ・ストーリーは突然に」が挿入歌として使われていて、中国の視聴者に永尾完治と赤名リカの物語を思い起こさせました。これは『東京ラブストーリー』へのオマージュとも言えるかもしれません。『東京ラブストーリー』は、中国でも1995年頃に放映され大ヒット。高い独立心を持ち、決して相手に依存しないという赤名リカの自由な恋愛感情は、『繁花』にも大きな影響を与えているように思います。上海も、誰もが独立した存在でいられ、親密と孤独の境界を曖昧に保つことができる都市なのです。
上海には一人で過ごすのに最適なスペースもたくさんありますが、恋人たちに相応しいロマンチックな場所も増え続けています。2023年末には百貨店のハロッズが、100年前に建てられた上海の洋館を使い、世界初のプライベートメンバーシップクラブをオープンさせましたが、上海には同じような歴史的な建造物が数多くあり、それらがリノベーションされたカフェやレストランはとてもいい雰囲気です。
例えば、清朝末期の政治家・李鴻章が晩年に愛人のために購入した邸宅を利用した華山路の「丁香花園」、1936年建造の洋館を使った番禺路の地中海レストラン「Scilla」、洋館をモダンに改装し芝生の庭園を有する長楽路の「Solo Garden」など、ぜひカップルで訪れてほしい場所です。