Rocky’s report from Shanghai
2023.12.22
Vol.42 Art by the River 黄浦江から蘇州河へ、上海アートエリアを巡る
文/令狐磊 Rocky Liang
翻訳/サウザー美帆
上海ビエンナーレ、西岸ART & DESIGNなどのアートフェアが目白押しだった2023年11月、各アートエリアは多くの人で賑わいました。今、上海のアートエリアというと、黄浦江沿いから蘇州河沿いにその広がりを見せつつあります。
もっとも美術館やギャラリーが密集するのは約5キロにわたる西岸(ウエストバンド)エリア。ここには龍美術館、西岸美術館、西岸アートセンター、西岸穹頂芸術センター、そして2022年末にジャン・ヌーベル設計でオープンした星美術館などをはじめ、ShanghARTなどの著名なギャラリーも大集合。いずれも相応の規模とクオリティをもつスペースで、これらが立ち並ぶ黄浦江沿いの龍腾大道は“美術館大通り”とも称されています。
西岸から北に車で10分ほどの場所には、高さ165メートルの煙突がランドマークの上海当代芸術博物館(PSA: Power Station of Art)があります。ここは中国本土初の公立の現代アートミュージアムで、上海ビエンナーレから始まった「宇宙電影」という展示では、宇宙が人間の生活に与える啓示についての深い考察を促しています。
PSAから黄浦江沿いに更に北に車で10分。歴史的建造物が立ち並ぶ外灘に出ると、古い建物をリノベーションした東一美術館(外灘1号館)やアーティスト・イン・レジデンスも行っているスウォッチ・アートセンターがあり、また、Vol.40紹介した外灘源ROCKBUNDには上海外灘美術館、その向かいのビルには世界的にも著名なリッソン、ペロタン、アルミン・レッシュといったギャラリーが入っています。
この外灘源ROCKBUNDでの最新のギャラリーはオオタファインアーツ上海。草間彌生を擁するギャラリーとして中国でもよく知られており、アジアに焦点を当てたコレクションや展示はもとより、この新しいギャラリー空間が、中国人デザイナーユニットのネリ&フーによってデザインされている点にも注目です。
そしてROCKBUNDの背後に広がるのは蘇州河沿いのエリア。上海で最も古い第一世代の現代アートエリアM50があり、ここから世界的に有名になった中国のアーティストも数多くいます。そして今年に入り北京から上海に進出したUCCA Edge、写真専門のFotografiskaもオープン。多くのローカルギャラリーが集まるSUHE HOUSEもこのエリアにあります。さらにこの蘇州河北岸から北外灘に向かっては、同済大学(建築デザインの分野で著名な大学)の影響のもと、多くの旧工場跡地が新たなアート&クリエイティブエリアに改修中です。
そして黄浦江の対岸には、ジャン・ヌーヴェル設計による浦東美術館、その隣には安藤忠雄デザインの震旦美術館、南側には石炭の貯蔵庫を改修した巨大な船のような芸倉美術館が構えています。黄浦江の両岸、そして蘇州河に沿って、古い工場跡地などがアートスペースや公共スペースへと次々に再開発され、それはビーズのように連なりながら上海の巨大なアートエリアを形成しているのです。
9月末から11月末にかけて開催されたアートイベントSUSAS2023(Shanghai Urban Space Art Season2023)では、「METro-BIOSIS」というテーマを掲げ、人間と自然の調和のアイデアを具現化。上海市全体に分散した20の展示エリアでは、独自のデモンストレーションやアクティビティが展開されました。
西岸美術館北広場には,現代美術家の郭熙(Guo Xi)による「無尽影院 A Film Endless」という作品が登場。一見するとただのシンプルな黒い枠なのですが、その向こうを流れる黄浦江の水面を画面とし、ポエティックな言葉がLED字幕で映し出されます。これは上海という都市をPRするのにとても相応しい表現だと思いました。
僕はこの黄浦江と蘇州河沿いのアートエリアをはしごできるクルーズ船があったらどんなに素晴らしいだろうかと想像しています。きっと他の国際都市にはない、上海の豊かなアートシーンを巡る素晴らしいツアーが体験できるに違いありません。