次の記事 前の記事

Rocky’s report from Shanghai

2023.10.25

Vol.40 心地よい風が抜き抜ける、 新しい「外灘源 ROCKBUND」を体感

文/令狐磊 Rocky Liang

翻訳/サウザー美帆

 上海の外灘(BUND)と言えば、僕たち上海の住人にとっては単なる「観光客が行く場所」、または「高級レストランに行くときだけ訪れる場所」でした。しかし「外灘源 ROCKBUND」が完成したことで、これからは僕たちも頻繁に訪れるようになるでしょう。

 「万国建築博物館」とも称される外灘の建物群は、重厚な石壁やシンメトリーなアールデコ建築、そして重々しい鉄門など、威風堂々とした雰囲気があります。上海にはこのような美しいファサードの建築が豊かな一方で、ヨーロッパの都市で見るような、建築物の間のゆったりとした広場空間が不足していると、僕は感じていました。市内の旧租界地にある建物は地下スペースが不足しているため、建物と建物の間は駐車場として使用され、外部に開放された公共スペースとして使用されることはあまりありません。

Photo by Tian Fangfang

 しかし2023年度のプリツカー賞受賞者であるデヴィッド・チッパーフィールドとその建築チームは「外灘源 ROCKBUND」において、都市の広場を見事に実現しました。彼らは11棟の歴史的建造物の保護と修復、そして新しい建造物の建設を含むプロジェクトを完成させたのです。

デヴィッド・チッパーフィールド Photo by Christian Werner

 この新しい建築群のオープンを記念して、9月22日から10月6日にかけて「RAM assembles 建築フェスティバル」が行われました。

Photo by Tian Fangfang

 中心となる博物館広場の一角には、隣接する建築の構造フレームが外部に露出しており、フェスティバルの初日はここでフリーマーケットや小さな書店による展示などが行われ、広場の円形の水池ではモダンダンサーたちのパフォーマンスが行われました。

Nunu KongとYan Yufengによるパフォーマンス
Photo by Tian Fangfang

 建物の間にベンチのように配置された多数のグレーのコンクリートはとても心地よい質感で、ぜひ座ってみることをおすすめします。

Photo by Tian Fangfang

 このフェスティバルでは、デヴィッド・チッパーフィールドを芸術監督に迎え、100以上のアートイベントやシンポジウムを開催。建築やデザインの領域を超えて、公共空間に対する人々の感覚と経験を豊かにするべく、都市の多様な活力を提唱しました。

Moinによるパフォーマンス
Photo by Tian Fangfang

 また、この建築群の中にある上海外灘美術館(ROCKBUND ART MUSEUM)は、「通り抜ける風」という短い動画をつくり、建物と建物の間の開放的な空間に吹き込む風の気持ちのよさを表現しています。
@hanatsubakimagのリールにて公開中。

 開発チームは、この自由な風に呼応するかのようなショップを引き入れています。
 折りたたみ自転車ブランド「BROMPTON」が開設するBROSHOPは都市を自転車で駆け抜ける若い層に大人気。福建省アモイの茶葉ブランド「Basao」は、上海初のポップアップ店を開設し、中国茶の茶室も提供しています。北京の出版社「理想国」は独自のコンセプトをもつブックカフェ&バーをオープン。作家のサイン会も開催。中国のミシュランレストラン「新榮記」は、「榮記海鮮小酒館」を新たに開店しました。

Basao
理想国のブックカフェ&バー

 また、中国のコーヒーチェーン「% Arabica」は、日本のコーヒーの神として知られる堀口俊英の店「HORIGUCHI」をここにオープン。世界的に有名なオークションハウスのクリスティーズも、これらのカフェの隣の建物に中国支店を開設しました。

感度の高いテナントがエリアを彩っている。

 「外灘源(ROCKBUND)」という名称でこのエリアが再開発が始まったのは、2010年の上海外灘美術館(RAM)のオープンからでした。そして13年経った2023年。ついに街区全体の再開発が完結し、正式なオープンを迎えました。その間、開発が疑問視されることもありましたが、建築家による繊細で精緻な計画のもと、長い年月を経て荘厳な建築群に自由の風を吹かせることに成功したのです。このような都市空間の今後の発展には、大いに期待したいと思います。

令狐磊 Rocky Liang

クリエイティブディレクター/編集者

上海の出版社Modern Media社が発行するカルチャー誌『生活LIFE MAGAZINE』『週末画報Modern Weekly』などのクリエイティブディレクターを務める。同時に文化とビジネスの新しいスタイルの融合を目指す文化力研究所の所長として『花椿』中国版の制作を指揮するなど多方面で活躍中。

サウザー美帆

編集者/翻訳者

元『エスクァイア日本版』副編集長。上海在住を経て、現在は東京を拠点に日中両国のメディアの仕事に従事。著書に日本の伝統工芸を紹介する『誠実的手芸(誠実な手仕事)』『造物的温度(ものづくりの温度)』(中国語、上海浦睿文化発行)。京都青艸堂の共同設立者として中国向け書籍の出版制作にも携わる。