Rocky’s report from Shanghai
2022.09.26
Vol.27 中国の金沢、景徳鎮で愉しむ工芸文化の香り
文/令狐磊 Rocky Liang
翻訳/サウザー美帆
コロナ以降、中国でも国内旅行の需要が高まり、新たに注目を集めている場所がいくつかあります。上海から飛行機で1時間、高速鉄道で4時間の景徳鎮もそのひとつ。新しい建築も目白押しで、英国のデイヴィッド・チッパーフィールド建築事務所設計による「陶渓川酒店Taoxichuan Hotel by Hyatt」「陶渓川大劇場Taoxichuan Grand Theatre」、中国の人気建築家による「景徳鎮御窯博物館Jingdezhen Imperial Kiln Museum」「丙丁柴窯BingDing Wood kiln」などや、伝統的な村の特色を残しつつモダンなデザインのレストランやB&Bが数多く出現している三宝村などが、中国の若者の間で人気のSNS「小紅書」でよくフィーチャーされています。
景徳鎮の隣の浮梁県寒溪村では、このコラムのVol.11でも紹介した、北川フラム氏の指揮のもとに始まった中国初の「大地の芸術祭」ともいえるアートプロジェクトが1年を通してさまざまな活動を行っており、景徳鎮を拠点にこちらに何度も訪れている人も多くいるようです。
景徳鎮といえば、最高品質のカオリン粘土が採れることから陶磁器の産地として昔から有名で、中国人のみならず世界各国の職人や作家が滞在しています。ロイヤル・カレッジ・オブ・アートの教授で、英国と景徳鎮の間を行き来する陶芸家のフェリシティ・アイリーフ(Felicity Aylieff)は、僕らが訪れたとき、キュー王立植物園での大規模な展覧会の準備を進めていて、景徳鎮の熟練職人たちのサポートを受けながら、巨大な瓶(かめ)に植物を描いていました。
同じく英国と景徳鎮を拠点とするのは、19歳のときに益子で陶芸を始めたという日本人陶芸家の安田猛。ロエベ・クラフト・プライズ2018のファイナリストにも選ばれた彼にとって、今の中国はもっともエキサイティングな場所だと語っていました。
中国の新世代の作家たちも、景徳鎮で工芸やデザインへの理解を深め、独自のスタイルで作品づくりをしています。
景徳鎮を愉しむには、SNSの情報を頼りに人気建築やおしゃれなスポットを訪れるのもいいですが、村や工場、また普通のアパートメントの中などさまざまな場所に点在する陶磁器工房を訪ね歩くのもおすすめです。染付や白磁、彫刻的なアート作品など、さまざまなスタイルの工房があり、地元の人々は初めての訪問者にも実にフレンドリー。それぞれの場所で、いろんな人たちが、お茶やお酒を飲みながら工芸について自由に語り合っていて、日本の京都や金沢を彷彿とさせる工芸文化の空気を感じることができます。
金沢はユネスコの「クラフト創造都市」に認定されていますが、景徳鎮は現在、明清時代の約600年に皇帝が使用する磁器を生産していた御用窯跡を世界文化遺産登録に申請中。いつか登録が叶い、より文化度の高い街となって、多くの旅行客が訪れることを期待しています。