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Rocky’s report from Shanghai

2022.08.29

Vol.26 スーザン・ファンが描く胡蝶の夢

文/令狐磊 Rocky Liang

翻訳/サウザー美帆

 黄浦江を望む藝倉美術館で発表されたSUSAN FANGの新しいコレクション「2023 Resort」のショーを見に行きました。薔薇の花を模した燭台に無数のキャンドルがきらめき、鏡面とその薔薇から胡蝶が飛び立つようなランウェイは、まるで夢の記憶のよう。体の動きに合わせて自動的に伸縮するファブリック・エアウィービングとクリスタルビーズを用いた独特のデザインは、清廉かつ優美で、新世代の注目を一身に集めています。

以下ショーの写真はすべて©SUSAN FANG

SUSAN FANGはデザイナーのスーザン・ファン(方妍楠)が2017年7月に設立したブランドです。彼女は最近、自分が昆虫に変身する夢を見たと言います。目が覚めた時、彼女はその昆虫にある種の共感を覚えたとのこと。「魂は自由、だから蝶になればいい」。そう言って、彼女はモデルたちに透明感のある“バタフライメイク”を施しました。

 ブランドのアイコンともいえるのは、エコ&リサイクルをテーマに、穴を開けた色付きビー玉とクリスタルガラスビーズを組み合わせた「バブルバッグ」。子供の頃の記憶をモードの世界で甦らせたこのシリーズには、デザイナーのノスタルジックな感情が込められています。

 

©SUSAN FANG

 このユニークな中国のファッションブランドのファンシーな素材と豊かな色使いは、どのように生まれたのかと多くの外国人からよく聞かれます。それは中国の伝統的な神仙思想から解釈できるかもしれません。『山海経』などの古典には、現世を超越した美の世界に生きる不老不死の神などが存在します。また、80年代以降に生まれた若者に大きな影響を与えている台湾発のビデオゲーム『仙剣奇侠伝』もその背景にあるかもしれません。人気女優のリウ・イーフェイ主演でこのゲームがテレビドラマ化されたことで、仙女というものが、近づきがたい純粋無垢な美をもつ者という意味で捉えられるようになりました。
 スーザンは自分の作品について、こう語っています。「私のビジョンはトレンドやスタイル、美学に導かれるのではなく、デザインの領域を超えて、幻影のようなものを表現することです」

仙女のゲーム

 スーザンは中国、カナダ、英国、米国で育ち、英国でファッションを学んでいます。が、ヨーロッパで教育を受け、母国語とは違う言語で育った多くの若い中国人デザイナーとは異なり、彼女は中国の血脈の記憶を強くもち続けています。時々一緒に旅をする母親から受け継いだ美意識もそのひとつ。芸術的才能のある母親が何気なく描いた絵が、スーザンのデザインする服のプリント柄になることもあります。

 幼い頃からさまざまな国を旅してきたスーザンは、こんなことも語っていました。「運命は予測不能。その時々に面白いと感じたことは、異なる文化の人たちのものの見方を発見すること。子供の頃からそういったことにとても興味を持っていました」

 この1〜2年の間に、スーザンは青海省のチベット族地域と内モンゴルの草原を旅し、現地でブランドのイメージ写真を撮影しました。スーザンの服やアクセサリーを身につけた遊牧民の姿は、地方のサスティナブルな伝統文化・家族・コミュニティへのスーザンの愛を表現したものでもあります。
「どこかの夢の世界へ、あるいは時空を超えて、私たちの魂は自由に動き回り、異なる世界観や生き方をもった人や生き物の身体に変化することができます」とスーザン。
 胡蝶をメタファーとした彼女の夢のような世界を、多くの日本の人にも楽しんでもらえたらと思います。

SUSAN FANGのアイテムを身に着ける遊牧民の少女

スーザン・ファン(Susan Fang 方妍楠)
中国浙江省寧波出身。2015年にロンドンのセントラル・セント・マーチンズのデザイン科を卒業。Kei Kagami、CELINE、Stella McCartneyで経験を積み、2017年に自身のブランドSUSAN FANGを設立。工芸、ハンドメイド、デザインと生産におけるサスティナビリティを重視し、革新的な紡績技術、色、シルエットを組み合わせた衣服やアクセサリーが注目されている。2019年にLVMH賞のセミファイナリストに、2020年にForbes誌の「30 Under 30 ASIA」に選出。SUSAN FANGのアイテムはBrowns、Farfetch、Net a Porter、Lane Crawfordなどの国際的なセレクトショップで取り扱われている。
https://www.susanfangofficial.com/

令狐磊 Rocky Liang

クリエイティブディレクター/編集者

『生活月刊LIFE MAGAZINE』など数々のカルチャー誌の編集長を歴任。現在は上海『衡山・和集』『方所 上海浦東店』など文化発信地的な書店のクリエイティブディレクターも務める。同時に文化とビジネスの新しいスタイルの融合を目指す文化力研究所の所長として『花椿』中国版の制作を指揮するなど多方面で活躍中。

サウザー美帆

編集者/翻訳者

元『エスクァイア日本版』副編集長。上海在住を経て、現在は東京を拠点に日中両国のメディアの仕事に従事。著書に日本の伝統工芸を紹介する『誠実的手芸(誠実な手仕事)』『造物的温度(ものづくりの温度)』(中国語、上海浦睿文化発行)。京都青艸堂の共同設立者として中国向け書籍の出版制作にも携わる。