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Rocky’s report from Shanghai

Vol.11  交通網の発展で変化する、地方への眼差し。

2021.05.18

文/令狐磊 Rocky Liang

翻訳/サウザー美帆

『花椿』中国語版の2号目も刊行し、中国国内でも配布がスタートいたしました!『花椿』中国語版の制作にご協力いただいている、上海のクリエイター集団「文化力研究所」の代表で編集者の令狐磊(ロッキー・リアン)さんが、中国の“いま”についてレポートします。今月は、中国の地方の活性化です。

 上海虹橋駅から高速鉄道に乗れば25分で蘇州に着き、中国の伝統的庭園を眺めたり蘇州麺を味わったりできます。北京の清河駅から高速鉄道に乗れば50分で崇礼(すうれい)に着き、北京冬季オリンピックの会場となるスキー場で滑ることができます。広州南駅から高速鉄道に乗れば2時間半で中国本土の最南端の街、湛江(たんこう)に着き、1920年代のフランス建築が残る赤レンガの古い街並みを楽しむことができます。

 2020年末に中国の高速鉄道の総距離は37,900kmに達しました(*日本の新幹線の10倍以上の鉄道網)。2015年末の19,800kmから比べると5年間で約2倍。今や世界1位の座を獲得しています。この高速鉄道のさまざまな駅が、中国に変革をもたらしています。

 この春、僕は毎週3〜4日は高速鉄道の駅にマイカーを停め、乗車時間が30分~1時間半程度の蘇州、杭州、寧波、紹興などを訪れ、仕事をしたり友人と会ったりしていました。高速鉄道で通勤している人からすれば、さほど珍しくない行動です。蘇州に住み上海で仕事をする人の中には、約30分の高速鉄道での通勤時間は、上海市内の地下鉄での移動よりも速いと言う人も多くいます。

 いま、大都市を核に200以上の都市に住む人々の物理的なネットワークが、高速鉄道の駅を支点に高頻度でつながるようになっていますが、同時に中国には総距離142,600kmの高速道路があることも忘れてはなりません。交通網の発展はビットコインのように分散をうながし、そこから新しい概念やライフスタイルが生まれています。

 上海から高速鉄道で3時間弱の浙江省沿岸部の臨海市では、帰省した若者たちが「X Project 臨海」というイベントを立ち上げ、展示や交流会、上映会などを通じて、ローカル文化についての思考を提言しています。彼らは「故郷にもっと多くの可能性をもたらそう」と語り、中国やアジアの良質なローカル雑誌や出版物を120種類以上集めて紹介する「ローカル出版物展」なども地元で開催しています。

「X Project 臨海」のビジュアル
ローカル出版物展
ローカル出版物展

 僕が顧問編集長を務める雑誌『LOHAS』では、今年初めに「小さな町の暮らし」をテーマにした特集を組みました。これからの時代は、大都市と地方の小さな町にいる時間を半々にすることで、よりサステナブルな暮らしができるのではないかと僕は考えています。小さな町での生活の知恵やライフスタイルの概念も形成されつつあります。特集ではいくつかのケーススタディを紹介。前述の臨海のほか、大運河で有名な揚州(ようしゅう)、磁器を生産する景徳鎮(けいとくちん)、世界遺産に登録されたばかりの古都・泉州(せんしゅう)、杭州の端にある余杭(よこう)、美食と宋代の面影が魅力の潮州(ちょうしゅう)など、各地の生活風景とともに、これまであまり注目されていなかった浮梁(ふりょう)についても触れました。

「小さな暮らし」特集から
「小さな暮らし」特集から

 浮梁は江西省景徳鎮の隣にある小さな町で、5月1日から本格的なアートフェスティバルが開催されました。日本の「大地の芸術祭」の創始者でもある北川フラム氏を顧問に迎え、これまで脚光を浴びることのなかった片田舎が、20人以上の著名アーティストが作品を発表する舞台へと生まれ変わりました。

Light/Ma Yansong.
photo by Tian Fangfang
Light/Ma Yansong.
photo by Tian Fangfang

 建築家の馬岩松(マー・ヤンソン)は巨大な照明スタンド「Light」を茶畑の斜面に、イスラエル人アーティスト、デビッド・ガースタインは中国茶を蒸す感覚を表現した巨大な彫刻「Tea for Two」を茶畑に設置。陶磁器を素材とする現代アーティストの劉建華(リュウ・ジャンファ)がつくったのは、廃墟となった水道橋の一部に空から滴り落ちる巨大な青い水滴「Channel Form」。イタリア人でマルチメディアアーティストのパオラ・ピヴィは徽派建築の建物に高さ20mのカラフルな梯子「Ladder」を設置。これまで大都市でしか見られなかったアーティストの作品が、地方の無名の小さな町で展示されることで、地元の人々のローカルで暮らすことへの誇りや集団意識も高まるのではないかと思います。
 中国には2,800以上の町村レベルの行政区があり、人口10万人以下の村は200以上あります。国土も市場も大きい中国においては、このような小さな町村の在り方こそが国本来の姿を維持する鍵を握っています。地方の暮らしに対する意識が高まることで、より多彩で美しい中国が実現することを期待しています。

Tea for Two /David Gerstein.
photo by Tashi
Channel Form/Liu Jianhua.
photo by Tashi
I Home Town /NiNi.HUO Cheng.YU Young.
photo by Tashi
Quanyou Rice Wine Tavern / Tango.
photo by Tashi

 

クリエイターの紹介

令狐磊 Rocky Liang

クリエイティブディレクター/編集者

『生活月刊LIFE MAGAZINE』など数々のカルチャー誌の編集長を歴任。現在は上海『衡山・和集』『方所 上海浦東店』など文化発信地的な書店のクリエイティブディレクターも務める。同時に文化とビジネスの新しいスタイルの融合を目指す文化力研究所の所長として『花椿』中国版の制作を指揮するなど多方面で活躍中。

サウザー美帆

編集者/翻訳者

元『エスクァイア日本版』副編集長。上海在住を経て、現在は東京を拠点に日中両国のメディアの仕事に従事。著書に日本の伝統工芸を紹介する『誠実的手芸(誠実な手仕事)』『造物的温度(ものづくりの温度)』(中国語、上海浦睿文化発行)。京都青艸堂の共同設立者として中国向け書籍の出版制作にも携わる。

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