Rocky’s report from Shanghai
2022.07.25
Vol.25 ロックダウン後に登場したOn Tapバーが人気
文/令狐磊 Rocky Liang
翻訳/サウザー美帆
2ヶ月にわたるロックダウンが終わった上海では、新しくオープンしたバーの「KRU」が注目を集めています。上海の飲食業界で有名なFLASKグループが手がける、上海初のWine on Tapの店です。on Tapとは、もとは「すぐに使える」というスラングで、タップ(蛇口)をひねってすぐに飲める、つまり生ビールのように酒樽のタップからワインをグラスに直接注ぐスタイルのことを言います。
上海静安区の中心、西康路にある店はガラス張りのファサードで、エドワード・ホッパーの有名な絵画「ナイトホークス」を連想させます。涼しい風が吹く夏の夜、通りに面した木製椅子に座りくつろげば、停車するバス、そのバスに乗り降りする人々がガラス越しに見え、上海の忙しさを実感します。
FLASKグループの創業者の一人でもあるケビン・ユウが描く顧客層は、若いホワイトカラー、家族連れ、ファッショニスタ、ワイン愛飲家などさまざま。環境に優しく良質で手頃な価格のワインを提供することを目的としていますが、価格帯は一人当たり350元(約7000円)と、ミドルクラスより少し上の層がターゲットです。
飲食業界に長く身を置くケビンは、コロナ禍による客層の明らかな変化を感じていると言います。以前は隠れ家的な秘密の空間を好んでいた客が、今ではオープンな空間や屋外を好み、かつてのようなディナー、バー、ナイトクラブ、KTV(カラオケボックス)といった順で夜を過ごす人は少なったことで、お酒を楽しむ新たな場の可能性が広がっているようです。
そんな中で、飲み友との社交が必要な都市の若者にとって、ここ数年上海で最も人気のあるバーのひとつは「公路商店(On the Road Store)」。街角のコンビニスタイルで、主に瓶ビールを販売。店内には席がないため、みんな外に立って飲んだり話したり、疲れたら道端に座ったりといった感じで、路上飲みを楽しんでいます。
最近いくつかの古い店を「公路商店」にリデザインしたリュウ・カイは、「街の多様性や自由さを重視し、それをよりパブリックな行動につなげるデザインにしました」と話しています。彼はモジュラーデザインなどでよく知られる人気デザイナーで、彼が設計した店舗はいずれも若者で人気のエリアにあり、最初にオープンした3店舗は赤・青・緑の3色が基調となっています。
「公路商店」以外にも、お酒だけを売るコンビニがコンセプトの新しいバーがいくつか誕生しています。華やかなデザインやカクテルがなくても、夜になれば若者たちは街に繰り出し深夜まで飲み明かします。ストリート写真家で知られ、上海の夜を撮り続けているハス・ジャンの作品からも、その街の活気が伝わってきます。
上海のバーのビジネススタイルは、隠れ家から街頭へと移り変わっています。2014年にFLASKグループが初めてつくったバー「Press & FLASK」は、ヴィンテージのコカコーラの自動販売機の裏に入口が隠され、冷蔵庫の扉を開けると奥に古きアメリカを思わせるゴージャスなバーが現れます。
アジア最大級のバー・コンぺティションでの受賞でも知られる、上海の隠れ家バーの代表格「Sober Company」は、カクテルを飲み、食事をし、食後酒を飲むなどのステップを踏んで初めて、その先にある秘密のバー「Tipsy」の扉を開けることができました。こちらは6月末に閉店が告知されています。
ケビンはこんなことも話していました。「東京のバーは上海に比べると少し保守的。私が知っているところはほとんどが伝統的な雰囲気で、お酒もクラシックなカクテルがメイン。でも日本のバーの技術とカクテルに対する知識は、他の国とは比較にならないほどのクラフトマンシップに溢れています。日本にも新しいコンセプトのバーはありますが、その割合は少なく、やはり文化の違いでもあるのでしょう。上海は多様な発展を遂げ、市場も新しいコンセプトやプロダクトに対して実にオープンです」
コンビニとワインのon Tapという新しい街飲みのスタイルはSNSで拡散され、上海のナイトライフに新しいコミュニティを生み出しています。皆さんも上海に来たら、ぜひ一緒に街角でリラックスしながらお酒を楽しみましょう!