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Rocky’s report from Shanghai

2022.05.24

Vol.23  中国を代表するダンスカンパニーTAO Dance Theaterが解散?

文/令狐磊 Rocky Liang

翻訳/サウザー美帆

NYのリンカーンセンターで異なるダンスカンパニーと公演した際のドゥアン・ニー。Photo by Xiao Quan

 4月末、中国のコンテンポラリーダンスカンパニーTAO Dance Theaterが、WeChatの公式アカウントでネットライブ終了後に突然、「私たちは解散します」と公言。衝撃が走りました。 
 陶冶(Tao Yeタオ・イエ)、段妮(Duan Niドゥアン・ニー)、王好(Wang Haoワン・ハオ)によって2008年に設立されたこのダンスカンパニーを長く愛してきた僕は、2020年初頭にコロナが発生して以来、彼らのライブを生で見ていません。彼らのように国やアート系ファンドなどから支援を受けていない独立系のダンスカンパニーは、コロナ禍で公演が次々に休演となり、閉鎖の危機に陥っているのです。

 僕が初めてTAO Dance Theaterのアーティスティックなエナジーを実感したのは2015年夏、パリのメンズファッションウィークで、山本耀司のブランドY-3のショーに招かれたときでした。6人のダンサーが登場したこのショーについて、山本耀司はこのように語っていました。「動くこと、それは生命における唯一の不変の法則であり、シンプルな動作から生まれる身体の美は、私にとって唯一のインスピレーションでもあります」

2015年6月、パリのメンズファッションウィークにて山本耀司の「Y-3」のショーに登場。Photo by TAO Dance Theater
2015年6月、パリのメンズファッションウィークにて山本耀司の「Y-3」のショーに登場。Photo by TAO Dance Theater

 作品名がアラビア数字で名付けられている彼らのダンスは、ミニマル派と称され、セットや小道具を一切使わず、身体の本質に立ち返ることがテーマです。ひたすら動き続けるパフォーマンスは、初めて見る人にとっては奇妙だったり、ショックを受けたり。僕は2017年に上海文化広場で行われた作品《8》の国内初公演で、約2000人の観客とこれらの感覚を共有しました。
 かつてニューヨーク・タイムズ紙は「タオ・イエはミニマルで無垢な彼の内なる瞑想に見る者を引き込む力がある。心臓の鼓動を捉えれば、身体は聖域となる」と評しました。一方でタオ・イエは、自分が創作しているのは“貧乏の芸術”だと語っています。若い頃、上海でモダンダンサーとして活動していた彼は「一番貧しかったときは60~70毛(6~7元)しか持っていなかった」そうで、極限の生活を体験したことが、彼を極限のパフォーマンスに追い込んでいるのです。2008年のカンパニー設立当時は、友人のアーティストの倉庫を借りてリハーサルをしなければならないほど金銭的余裕がなかったそうですが、彼らは独自のスタイルで、辛い現実から脱却すること力があることを世界に示そうと決意しました。

TAO Dance Theater作品《8》
TAO Dance Theater作品《9》
TAO Dance Theater作品《10》

 2008年から2022年、彼らが活躍した14年間は、中国経済が飛躍的に成長した時期でもあります。極度に膨張する社会のエネルギーと、極度なコントロールと引き算から生まれる彼らの美学は、ユニークな対立を形成していました。もし彼らが本当に解散してしまえば、彼らに社会の富が分配されることも、中国の美学を世界に届ける手段もなくなり、ダンサーは次々と舞台から離れ、かつての理想も消えてしまいます。かつてタオ・イエが語った「代々伝えることができる本当の遺産は、私たちの身体だけ」という言葉を思い出します。

NYのリンカーンセンターで異なるダンスカンパニーと公演した際のドゥアン・ニー。Photo by Xiao Quan

 2016年と2017年に僕が運営する書店で、タオ・イエのトークセッションを行い、時間と身体というダンスの核となる2つの要素に焦点を当てて話をしたことがあります。1回目のとき、タオ・イエは肩が脱臼したかのような奇妙な円を描く動きを披露し会場を驚かせました。しかし2回目のときは、肩に11本のボルトを入れる手術をしたので、もうこの動きはできませんでした。医者からは「これまでテニス選手に入れた10本のボルトが最多。あなたの肩はもう限度を超えている」と言われたそうです。

 彼にとってこの11本のボルトは、長い時間をかけて積み重ねられた肉体の消耗の証です。彼はこうも言っていました。「身体はある種の痕跡です。ある人はタバコの火傷の跡があり、ある人は愛のために入れたタトゥーがあり、ある人は鍛えに鍛えた痕跡があり、それらは常にあなたと共にあります。身体は一切の物事の根源であり、時間を映し出すものなのです」

2017年に開催した衡山和集でのトークセッション
Photo by Tian fangfang
2022年の最新作『無数シリーズ』より「対照」。Photo by Fan Xi TAO Dance Theater1

 満員の聴衆を魅了したその講演会場の舞台裏で、瞑想しているかのように床にあぐらをかき、ストレッチをするドゥアン・ニーを見つけた僕は慌てて「椅子、ありますよ!」と声をかけたところ、彼女が微笑みながらこう答えたのをよく覚えています「大丈夫、床に座るのに慣れているから」。彼らのパフォーマンスをまた生で見られる機会が来ることを願っています。

陶身体劇場TAO Dance Theater
国際舞台で最も高く評価されている中国のコンテンポラリーダンスカンパニーのひとつ。各界から広く注目され、設立以来、世界40カ国以上、100以上のフェスティバルに出場。最も多い時は1年に21フェスティバル、12カ国、25都市、年間42公演のツアーを行なっている。これまで「数字シリーズ」のダンスは11作品発表されている。
http://www.taodancetheater.com/

令狐磊 Rocky Liang

クリエイティブディレクター/編集者

『生活月刊LIFE MAGAZINE』など数々のカルチャー誌の編集長を歴任。現在は上海『衡山・和集』『方所 上海浦東店』など文化発信地的な書店のクリエイティブディレクターも務める。同時に文化とビジネスの新しいスタイルの融合を目指す文化力研究所の所長として『花椿』中国版の制作を指揮するなど多方面で活躍中。

サウザー美帆

編集者/翻訳者

元『エスクァイア日本版』副編集長。上海在住を経て、現在は東京を拠点に日中両国のメディアの仕事に従事。著書に日本の伝統工芸を紹介する『誠実的手芸(誠実な手仕事)』『造物的温度(ものづくりの温度)』(中国語、上海浦睿文化発行)。京都青艸堂の共同設立者として中国向け書籍の出版制作にも携わる。