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Rocky’s report from Shanghai

Vol.18  伝統的な蘇州庭園と現代アートの邂逅

2021.12.23

文/令狐磊 Rocky Liang

翻訳/サウザー美帆

2021年の10月末から12月初旬にかけて蘇州国際デザインウィークが開催。なかでも素晴らしかったのが、その一環として行われた「蘇州庭園芸術祭」。蘇州四大名園の一つで世界遺産にも登録されている滄浪亭(そうろうてい)をはじめ、可園(かえん)、怡園(いえん)、芸圃(げいほ)(怡園と芸圃も世界遺産)などの美しい庭園内に、数々の現代アート作品が展示されました。主催者は庭園のもつスピリチュアルな側面を尊重しつつ、現代アートを取り入れることで、庭園の二次的創造を試みたのです。

滄浪亭
可園
可園 王克平(Wang Keping)の作品「Bird」
怡園 宋涛(Song Tao)の作品「Soft Pebbles」
芸圃

 蘇州の庭園研究家としても著名な建築家の童寯(Tong Jun 1900-1983)の孫で、建築家、造園家として活躍する童明(Tong Ming)は、この芸術祭についてこう語っていました。「イタリアの中世の庭園でモードのファッションショーを行ったり、ルーヴル美術館でパーティを開くのと同じで、ここにはある種の対比がもたらされています。蘇州の庭園も変化を求めているのです」。彼は多くの人がよく知る蘇州の庭園に連なる太湖石を例に挙げています。実はこの石が庭園に登場したのは古代ではなく、唐時代末期のことなのだそうです。

怡園 洪磊(Hong Lei)の作品「Speak,Memory of…」

 庭園を巡りながら、作家の唐克揚(Tang Keyang)が最近出版した『生きている中国庭園』(*邦訳未出版)という著書に書かれていたことを思い出しました。ジェイン・ジェイコブズの『アメリカ大都市の死と生』(鹿島出版会)に呼応するかのように、彼は“中国庭園の死と生”について書き、江南エリアの象徴ともいえる蘇州の庭園が生まれる前、その場所は都市の空白部分であったと論じています。そして古代の才能ある造園家や職人たちが並外れた創造性を発揮し、蘇州の庭園はつくられました。拙政園(せっせいえん)はすべてを内包し、獅子林は奇妙な石が優麗に連なり、網師園は優雅で繊細で、滄浪亭は悠然としています。「蘇州の庭園は単なる鑑賞の対象ではありません。生き生きとした家のような存在でもあり、創造主の精神世界も反映されています」と、童明は語っています。

芸圃 キュレイターのJeremie Thircuirと斎倬(Qi Zhuo)の作品「Paperless Engineless」

 その伝統的な庭園を舞台とした芸術祭のキュレーターはフランス人のJérémie Thircuir。彼にとっては2020年に続き二度目のキュレーションで、2021年のテーマは「異界の古代パビリオン/Tales of the Ancient Pavilion」。より遊び心のある内容となっていました。彼によってもたらされた空間では、木に吊るされた紙飛行機形の磁器、口が90度ねじられ花が挿せないデザインの伝統的な花瓶、竹林の中の華やかな樹脂製の彫刻などによる視覚的な効果で、どこにでも異界が存在する可能性に気づかされます。

滄浪亭 王一(Wang Yi)の作品「Primary Structures」

 芸術祭総合プロデューサーの高焕(Gao Huan)によれば「庭園は世界の縮図」。そこにはアート、デザイン、建築、音楽、文学、美食などの対話が包括されていました。伝統的な庭園は蘇州の文化遺産のひとつとなっていますが、シンガポールをモデルとした経済発展を追求し、世界でも有数の工業地区を有する都市で、このような文化的行事が行われていることは喜ばしいことです。

 また、デザインウィークのイベントのひとつ、古い劇場の前で行われた「平江の夜」も心に残るものでした。この劇場は、現在は蘇州中国昆曲博物館として使われ、かつては山西省人の集会所でした。清朝時代の精巧な様式美に富んだ建築と現代的なLEDのスクリーンが、二百余年の時間と空間の間に強い対話を生み出していました。演奏に合わせ、蝶のモチーフとともに、新世代のニューメディアデザイナーたちがエプソンのプロジェクターを使ってインタラクティブな映像を平江対岸の古い家屋の壁に投影し、人々は魅惑的なデジタルアートを楽しみました。

平江の夜
平江の夜

 I.M.ペイ設計による蘇州博物館で行われていた、彫刻家の蔡志松(Cai Zhisong)による展覧会「一往而深(Going Deeper)」も印象的でした。蔡志松の代表作でもある梅花鹿の彫刻は、I.M.ペイがデザインした岩場の前をさまよい、水辺の向こう側をのぞむ姿で神話のような風景を描いていました。

蘇州博物館、蔡志松の梅花鹿
蘇州博物館、、蔡志松の梅花鹿

 中国では庭を訪れたり歩いたりすることを「遊園」と言います。歩く順路、季節、同行者、それらが違えば、庭での体験もまったく変わったものになります。この芸術祭に訪れた人々はそれぞれに、クラシカルな庭園がもつ魅力とともに、時空を超えたアートの美を堪能しました。

クリエイターの紹介

令狐磊 Rocky Liang

クリエイティブディレクター/編集者

『生活月刊LIFE MAGAZINE』など数々のカルチャー誌の編集長を歴任。現在は上海『衡山・和集』『方所 上海浦東店』など文化発信地的な書店のクリエイティブディレクターも務める。同時に文化とビジネスの新しいスタイルの融合を目指す文化力研究所の所長として『花椿』中国版の制作を指揮するなど多方面で活躍中。

サウザー美帆

編集者/翻訳者

元『エスクァイア日本版』副編集長。上海在住を経て、現在は東京を拠点に日中両国のメディアの仕事に従事。著書に日本の伝統工芸を紹介する『誠実的手芸(誠実な手仕事)』『造物的温度(ものづくりの温度)』(中国語、上海浦睿文化発行)。京都青艸堂の共同設立者として中国向け書籍の出版制作にも携わる。

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