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Rocky’s report from Shanghai

Vol.17  河南省の小さな村、大南坡(Dananpo)が 新たな「竹林の七賢」の地となって再生

2021.11.24

文/令狐磊 Rocky Liang

翻訳/サウザー美帆

上空からみた大南坡村
©️安哲建築 photo by 夏至

「共振する村の声」をスローガンにした「大南坡(Dananpo)・秋の集い」というイベントが10月に行われ、僕は大南坡という名の村を訪れました。そこは河南省の省都鄭州(ていしゅう)から車で約2時間の焦作市修武県(しょうさくししゅうぶけん)のとても辺鄙な場所にある小さな村で、北宋時代の山水画のような田舎道を進むと、その先に現れます。
 中国では数多くの農村活性化プロジェクトが進行中ですが、大南坡はかつて魏晋時代の西暦240年前後、「竹林の七賢(注)」が集っていた場所です。賢人たちはここで将棋を打ち、琴を奏で、詩を朗読し、歌を詠んでいました。1700年以上を経た今、ここを訪れると不思議と当時の風情が感じられ、この地が再び文化継承の地として復活することが当然のことのようにも思えました。

注:竹林の賢人=俗世間をさけて山中に隠遁し、礼節を捨て竹林に会し、清談に明け暮れたといわれる隠士七人の総称。

現在の大南坡村
©️安哲建築 photo by 夏至

 1970年代、大南坡は炭鉱で栄えた裕福な村として知られており、公会堂や学校などが建造されました。しかしその後、鉱山の資源が枯渇し炭鉱産業が衰退すると、炭鉱労働者のために建てられたこれらのパブリックスペースは、不用の建物と化してしまいました。

リノベーション前の建物たち

 2019年になり、地元政府は建築家の王求安(Wang Qiuan)やキュレイターの左靖(Zuo Jing)など、農村活性化推進における著名人を招き、美学の実践、自然教育、社会教育、ランドスケープデザイン、展示、製品や空間のイノベーションなど、さまざまな活動を通して、この平凡な村をクリエイティブな農村へと変える方法を模索しました。

 最初に立てられた計画は古い建物のリノベーションです。 昨年秋に第一期工事として、アートセンター、茶室、左靖が率いる碧山工銷社(Bishan Crafts Cooperatives)のショップ、書店の方所が運営する文化施設が完成。今年の秋にはローカルフードのレストラン、伝統的な村芝居の舞台なども竣工し、これらの複合施設によって大南坡の豊かな丘陵地は、趣のある一帯へと変化しました。

大南坡アートセンター
©️場域建建築
茶室
©️場域建建築
碧山工銷社のショップ
Photo by 彼得猫
舞台
©️場域建建築

 昨年秋に大南坡アートセンターで開催された「修武の山川・作物・工芸・風采」展は、長年、地域復興の研究を重ねてきた左靖によるキュレーションで、その内容も秀逸でした。「山川」は隣接する天台山(てんだいさん)の急峻な崖の地形を俯瞰する展示。「作物」はこのエリアの最も典型的な生産物である小麦と、その田畑と周辺文化の調査。「工芸」は練り上げという手法を用いた地元の代表的な工芸品である絞胎器(こうたいき)についての考察。「風采」は山水画や伝説の中に残る竹林の七賢を、木版画家の劉慶元(Liu Qingyuan)が再現したものでした。

「修武の山川・作物・工芸・風采」展のポスター
Design by 馬仕睿

 ランドスケープデザインは、中国で最も人気のある建築デザイン事務所の一つ、張唐建築(Zhang Tang Architecture)が手がけています。また、北京現代芸術基金(BCAF)や無印良品(Muji)の資金提供によって、大南坡村の子供たちに体系的で多様な芸術教育が行われるプランもあります。

 今年、2回目の開催となったイベント「大南坡・秋の集い」では、中国の民族音楽シーンで名を馳せる小河(Xiao He)、インディーズシーンで人気の五条人(Wutiaoren)などが、都会的かつ文学的な音楽の力を村にもたらし、また、河南省の伝統的な村芝居「懐梆」が、40年ぶりにこの地で演じられました。演者たちが舞台に集結すると、ステージ下の村人たちから大歓声が上がり、その様子は感動的でした。

伝統的な村芝居
Photo by 彼得猫

 僕が所属する方所は、「方所郷村文化」を全国で初めてこの地で展開しました。そこは書店、カフェ、展示ルーム、そして村の子供たちが参加できる「大きな黒板」を組み合わせたインタラクティブな空間です。地元の作家の作品だけでなく、時事的な話題や子供に焦点を当てた読書カテゴリーも大きな割合を占めています。

方所郷村文化
©️場域建建築

 コロナ禍に加え7月の河南省の洪水被害があったにもかかわらず、10月の国慶節のゴールデンウィークには、7,000人以上の訪問者がありました。ユニークな書店やスタイリッシュなレストラン、建築やアート、中庭に集う村のおじいさんたちが日向ぼっこをする風景、新しい民宿などが、多くの人々を呼び寄せています。

方所郷村文化の黒板と子どもたち
photo by 彼得猫

 美学を追求し、都会から著名なアーティストや作家を招き、映画を上映し、文化的な講演会を行う。こうして片田舎の小さな村に芸術の土壌を築くことは、同時に都市生活者の新たな文化的消費や原点回帰への欲求を満たすことにもつながっていきます。長きにわたり放置されていた小さな村は、ゆっくりと時間が流れ温もり溢れる新たな「竹林の七賢」が集う地となりました。

大南坡小酒館
©️安哲建築 photo by 夏至

クリエイターの紹介

令狐磊 Rocky Liang

クリエイティブディレクター/編集者

『生活月刊LIFE MAGAZINE』など数々のカルチャー誌の編集長を歴任。現在は上海『衡山・和集』『方所 上海浦東店』など文化発信地的な書店のクリエイティブディレクターも務める。同時に文化とビジネスの新しいスタイルの融合を目指す文化力研究所の所長として『花椿』中国版の制作を指揮するなど多方面で活躍中。

サウザー美帆

編集者/翻訳者

元『エスクァイア日本版』副編集長。上海在住を経て、現在は東京を拠点に日中両国のメディアの仕事に従事。著書に日本の伝統工芸を紹介する『誠実的手芸(誠実な手仕事)』『造物的温度(ものづくりの温度)』(中国語、上海浦睿文化発行)。京都青艸堂の共同設立者として中国向け書籍の出版制作にも携わる。

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