次の記事 前の記事

Rocky’s report from Shanghai

Vol.16  ファッションウィークの季節。 上海はブランドのプレゼンテーションに相応しい場所が目白押し

2021.10.26

文/令狐磊 Rocky Liang

翻訳/サウザー美帆

『花椿』中国語版の制作にご協力いただいている、上海のクリエイター集団「文化力研究所」の代表で編集者の令狐磊(ロッキー・リアン)さんが、中国の“いま”についてレポートします。今月は、上海のあらゆる場所を使って行われたファッションウィークについてです。

West Bund Dome

 毎年10月は上海ファッションウィークの季節。いくつかのイベントは、今年は少し早く9月末から始まりました。この中国最大のファッションウィーク期間中は、さまざまなブランドによるショーが多数行われ、多くのバイヤーやファッショニスタで街が賑わいます。
 では今、上海でショーを行うのに最適な場所はどこだと思いますか?

West Bund Dome

 第一に挙げられるのは、西岸芸術区の「西岸穹頂芸術中心West Bund Dome」。1920年に中国人実業家の劉鴻生(Liu Hongsheng)が建立した、当時アジア最大のセメント工場の中にあった直径80mの円形スペースで、長年放置されていましたが、今年5月、イベントスペースとして生まれ変わりました。

 ここで最初に行われたのは、国際的な振付家の沈偉(Shen Wei)による公演。沈偉は『易経』に記された64の卦辞(かじ *占いのひとつで儒教の基本経典でもある易で用いられる基本図象の説明)をもとに、円形空間の内側を64の四角いブースに切り分け、音響システムを上部に平行に配置。観客が舞台に溶け込めるようなユニークな視聴覚感を演出しました。ファッションウィークでもこの空間は多くのショーで使われ、モデルが観客の前後にある円形の通路を歩くという、非常に臨場感のあるスタイルもありました。これはパリのグラン・パレでのショーに少し似ていますね。

West Bund Dome

 もう一つは、外灘のウォーターフロントに位置し、対岸に上海東方明珠テレビ塔と超高層ビル群を望む「外灘1号One on the Bund」です。1916年に完成した当時の外灘で最も高く荘厳な建物で、最初は「外灘第一ビル」と呼ばれていましたが、1917年にシェル石油の子会社Asiatic Petroleum Companyが購入、その後は「アジアビルディング」と称されていました。外灘のビル群は主に銀行など金融機関に利用されており、ファッションブランドがショーを行うことは稀ですが、プラダが今年初めてミラノと上海で同時にショーを開催し、上海ではこの「外灘1号One on the Bund」を使いました。会場は最大300名まで収容可能。歴史的建造物と遠くに見える眩いイルミネーションが、時間と空間の重なりを感じさせました。

Prada 2022SS Shanghai at One on the Bund
Prada 2022SS Shanghai at One on the Bund
Prada 2022SS Shanghai Celebrities at One on the Bund

 プラダといえば、2019年、民生埠頭で行われたショーには900人が参加。レム・コールハース率いる設計事務所のOMAが会場のデザインを手がけ、8万トン級の穀物庫を有する、かつて極東ナンバーワンだった埠頭を壮大なスケールのランウェイに変えたことも記憶に新しいです。

 また今年9月末から10月初旬にかけて、ローカルな食品市場に現れたプラダのポップアップストアも話題となりました。プラダが世界各都市で行っているFEELS LIKE PRADAという2021AW広告キャンペーンで、上海で選ばれたスポットは「烏中市場」。周辺には、近年、上海で最も注目されているショップやレストランが集まっています。プラダはモデルを一人も用意せずとも、ブロガーやファッショニスタが自発的に集まり、ブランドのキャンペーンVI(ヴィジュアルアイデンティティー)カラーの包装をあしらった果物や野菜を持って写真を撮っていました。

Photo by Rocky Liang
Photo by Rocky Liang

 1955年に「中ソ友好記念会館」として建てられた典型的なロシア古典建築の「上海エキシビションセンター」も市の中心部にあり、ファッションイベントによく使用されます。この建物はイギリス系ユダヤ人の資産家ハートンのプライベートガーデンだった敷地にあることから、今年5月、グッチはブランド創設100周年を記念した巡回展「グッチ ガーデン アーキタイプ Gucci Garden Archetypes」をここで開催。これも上海ならではの非常にゴージャスな選択でした。

 上海にはショーに適した華やかな場所がたくさんありますが、変わった空間でユニークな試みが行われることもよくあります。例えばシャネルは、カール・ラガーフェルドがデザインを担当していた時期、2005年にはリニアモーターカーの駅で、2010年には蘇州河にはしけを浮かべてショーを行いました。蘇州河から連なる黄浦江を行き交う船の甲板から、船員たちが水上のランウェイを歩くモデルを見たときはきっと驚き、これぞ魔都と思ったことでしょう。

 僕がディレクターを務める書店「衡山・和集」のあるエリアでは、中国のファッションブランド「例外 Exception」が、プラタナスが連なる旧フランス租界の街頭でショーを行ったことがあります。来年はどんな場所でどんなショーが見られるのか、今から楽しみです。

CHANEL 2010

クリエイターの紹介

令狐磊 Rocky Liang

クリエイティブディレクター/編集者

『生活月刊LIFE MAGAZINE』など数々のカルチャー誌の編集長を歴任。現在は上海『衡山・和集』『方所 上海浦東店』など文化発信地的な書店のクリエイティブディレクターも務める。同時に文化とビジネスの新しいスタイルの融合を目指す文化力研究所の所長として『花椿』中国版の制作を指揮するなど多方面で活躍中。

サウザー美帆

編集者/翻訳者

元『エスクァイア日本版』副編集長。上海在住を経て、現在は東京を拠点に日中両国のメディアの仕事に従事。著書に日本の伝統工芸を紹介する『誠実的手芸(誠実な手仕事)』『造物的温度(ものづくりの温度)』(中国語、上海浦睿文化発行)。京都青艸堂の共同設立者として中国向け書籍の出版制作にも携わる。

もっとみる

この記事に関するタグ検索