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今月の詩

2024.10.01

落雁

詩/草野理恵子

落雁って知ってる?
急に顔の丸いやつが言った
こいつとは付き合いが長いけど
名前知らないんだ
や 知ってたけど忘れた
そのあと聞けない
だから顔の丸いやつ

で なんだっけ? らくがん?
落書きの一種?
や なんか食べるもの
や そうかどうかわからん
擬態しているらしいから
らくがん……
あれか 口の中で溶けて甘いやつ
うん 顔の丸いやつが僕の口に頭を入れる
擬態してたんか? おまえ
うん ハロウィン

落雁を調べた
お花みたいな形のしか出てこなかった
ちゃんと調べたか?
うん
じゃあまだうまくいってるな

顔の丸いやつは上品な南瓜の味がした
ハロウィンが近い
擬態した落雁を探す
ねえ名前をちゃんと聞いとくんだった
それからやつに会っていない

 

 

選評/環ROY

私は草野理恵子さんの詩が好きだ。昨年から「今月の詩」の選考委員を務めており、今年で2期目となる。昨年は彼女の詩「はるまき」(2024年2月に公開)を選び、選評を執筆したが、今年も偶然、再び彼女の作品を選んでいた。選考はあくまでインスピレーションと自身の嗜好に従って行い、作者名を意識することはない。結果として選んだ詩が草野さんのものだった。
草野さんの詩は、イメージの飛躍や切断、突飛な接続が際立っており、まるで言葉同士が事故を起こしているような感覚を覚える。しかし、その言葉同士には独特の緊密さがあり、何度読んでも新鮮さを失わない。これは、単なる偶然や適当な言葉の組み合わせではなし得ないことだ。彼女だけが理解し、堅持している規則が詩の背後にあるからこそ生まれる強度ではないだろうか。
彼女の詩は超現実的で、不気味さとコミカルさが交錯し、軽やかでありながらも確かな重心がある。また、「日本語を自在に操ることが当然」という前提がないように感じられる。これがかなり強烈に独特で、非常に刺激的だ。まるで日本語の外側から日本語に触れているような、なんともいえない緊張感。これが彼女の詩を稀有なものにしていると私は感じる。