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今月の詩

2024.02.01

はるまき

詩/草野理恵子

私たち赤くなって水に浸かっていたら
背後で人が浮遊しているような気配がした
どうする? 見る? 見ない?
って言って見ないことにした
見なければ無かったのと同じだよねーって
手をつないだ
私たちの影は水の中に真っ赤に美しく揺らいだ

何を簡単に消すことができるかの話をした
彼女は刃物を消すことができたと言った
お母さんが料理しないいい理由になったよと
笑った
祈祷師に頼んでその能力をなくしちゃったって
言った
もったいなかったね
うん でもいいよ お母さん料理し始めたし
でもこんな時使えたのにねって刃物を見せた
消せたらまだ生きられてた?
うん でも違う方法とってたかも

透明人間になれたらよかったのにね
私たちは次の能力を願いながら浮遊した
背後を浮遊していた人とすれ違った
あ やっぱ見ちゃった
もうずいぶん形が崩れていて
透明人間まであと少しだねって言ったら
「はるまき」って言って流れて行った
何だろう 春だね
私たちも春に巻かれて流れた
桜よりも赤く

 

 

選評/環ROY

これは、幽霊たちの対話なのだろうか。水色のポリバケツに浸かる、落ち葉のように小さい二人の女性を私は想像した。彼女たちはなぜ赤くなっているのか?怒りの表れ、それとも恥じらい?文脈も前提もない中で展開される抽象的な情景描写が、読み手の想像力を喚起する。詩であると同時に小説のようにも感じられ、奇妙に映像的だ。

現世とは微妙にズレた不気味な対話が続き、彼女たちは死後の世界に到達した者同士であることがわかる。刃物、親子、死といった強い言葉が重く切実な背景を作り出すが、むしろ思春期の女性たちが心情を打ち明け合い、素直に対話しているような印象が前景に立ち、むしろドライで心地よい雰囲気が広がる。

そして、突如として現れる「はるまき」。声を出して笑ってしまった。幽界の会話を盗み聞きしていたかのような緊張が、一転して可愛らしい響きを持つ食べ物の名称によって緩和される。この落差が非常に小気味よい。
春がやってきて、彼女らは霧散してしまう。その理由は明示されない。特に理由はないのだろう。春が来たら巻かれてしまうようだ。この気怠い投げやりさが無性に愛おしい。そして象徴性の高い桜と、強い色である赤が、いささか強引に物語を切断する。このぶっきらぼうな結末が、非常にクールで、現代的だと感じた。簡単にいうと、モダンでカッコよくてドープな詩だと思った。