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Column

2018.09.28

世界サウナ紀行 Vol.6 Destination : California (U.S.A)

文、写真/大智由実子

イラスト/ほりゆりこ

温泉大国ニッポンに生まれ、元から温泉が好きだった私はサウナにハマってからというもの、当然ながら温泉とサウナのコンボは大好物になりました。温泉とサウナのある温浴施設に行く度に「あぁ〜日本人に生まれてよかったなぁ〜〜」としみじみ感じておりました。むしろ、この極上体験を知らない外国人に対して憐れみさえ感じていたのですが……なんとアメリカにはこの温泉&サウナコンボの大自然バージョンとでも言いますか、ヒッピー向けのちょっと(いや、かなり?)スピリチュアル系のとんでもない温泉施設があったのです!
 そこはカリフォルニア州北部にある、古くからネイティブアメリカンが「聖なる山」と呼ぶシャスタ山というパワースポットからさらに少し北上したウィードという街の山奥にあるスチュワート・ミネラル・スプリングス(Stewart Mineral Springs)という温泉施設です。こちらでは名前にもある通り、ミネラル分が豊富な鉱泉が湧いており、さらに薪を燃やして暖めるサウナと目の前を流れる川へのダイブ、という最強のコンボが体験できるのです。ただ、温泉と言ってもそこはやはりアメリカ。日本の山奥にある温泉施設のイメージとは一味も二味も違っていました。

ヒーリングパワーがすごいと噂の湧水の流れる川。見ているだけでも心が洗われるようです。

車で山道をゆられ、 ようやく到着した❝水❞の聖地

 スチュワート・ミネラル・スプリングスへは車で行くしかありません。神々しく雄大なシャスタ山の麓にあるマウントシャスタ・シティという小さな街から車で30分程、うっそうとした山の中へと入っていきます。辿り着いた先にはまるで西部劇に出てきそうな古い大きな木の門があり、看板には「Since 1875」と書かれていました。後で調べたところ、ここは古くからネイティブアメリカンたちが癒しの泉として使っていた鉱泉で、1875年に植民団のヘンリー・スチュワートがオレゴンへと移動する際に馬が沼地にはまってしまい、怪我をして進めなくなり困っていたところを現地の親切なネイティブアメリカンが助け、この泉で傷ついた馬を癒したことで発見されたそうです。そんな歴史に加え、ウェブサイトを見てみると何やらここの水はとてつもないヒーリングパワーがあるだの、水の結晶がパーフェクトな形をしているから波動がどうのこうの、といろいろと書かれており、「なんだかよくわからないけどすごそう……」と感じてしまいます。実際、このあたりはミネラルウォーターで有名なクリスタルガイザーの採水地なので、水が本当に綺麗で美味しいのです。
 心が洗われるような美しい川の流れる橋を渡り、期待に胸をはずませ、いざバスハウスへ。クリスタルやらお香やらといったヒーリンググッズが並んだショップで受付をしてお金を支払うと、身体に巻く布を渡され中へと通されます。ここは男女一緒なのですが、以前の真っ裸もOKといういかにもヒッピー的なルールが近年になって水着着用もしくはこの布で身体を隠すように、とルールが変わったそうです。(とはいえ、サウナの中では真っ裸になっている人もいましたけどね)

1人づつ貸切の小部屋。バスタブには温泉がはってあり、自分で水を加えて温度調節ができます。

 まずスタッフがここの温泉の入り方を教えてくれます。何やらいろいろと注意点やらルールがあるそうで、聞くとこの温泉は研磨剤の働きをするケイ素が多く含まれているので、お湯の中で身体をこするのは厳禁!ということと、温泉成分が非常に強いので10分以上お湯に浸からないように、とのこと。そして、まず温泉に5〜10分入った後、サウナで汗をかき、その後目の前の小川に入り汗と老廃物を流してから休憩、という流れを3回繰り返してください、とのこと。ふむふむ。これは自分がいつも日本の温浴施設でやっている「お風呂→サウナ→水風呂→休憩」のサイクルと同じだな、と思いました。そしてスタッフに案内されたのは大浴場ではなく、バスタブと椅子が置いてあるだけの簡素な小部屋。この部屋をひとり1時間15分貸切ということで、ドアの入り口に私の名前と終了時刻を書いたプレートを下げてスタッフは出ていきました。なんとここの温泉は全て個室でひとりずつ貸切のプライベート空間なのです。というのも、この温泉はかなりデトックス効果が強く入った後のバスタブには老廃物がたまるので、ひとり終わるごとに温泉水を入れ替えなければならないそうです。どんだけデトックス効果が強いんだよ!

薪ストーブのサウナ室。

大自然のコンボ デトックス効果はいかに!

 言われた通りまずはバスタブに浸かります。見た目は無色透明で匂いも無く、ちょっとヌルっとしているかな?という感じなのですが、浸かっているだけで汗がどんどん出てくるのです。温泉に10分入った後、タオルで身体を拭いてサウナへ。サウナ室は広くてうす暗く、音楽も流れていないので、中央にある大きなストーブの薪がパチパチと燃える音が響き渡ります。瞑想をするにはうってつけの場所で、各々静かにリラックスしています。そしてやはり薪ストーブのサウナは電気やガス式のサウナとは違い、空気の肌触りがとてもまろやかで、まるで暖かな毛布にくるまれているかのように優しいのです。ストーブの燃える炎をただひたすらぼーーっと眺めているだけで癒されていく感じがします。
 心地よく汗をかいたら外に出てキラキラと輝く小川に入ります。贅沢なことに、美しい大自然に囲まれ、天然のミネラルウォーターの源流に身を浸し、木陰で川のせせらぎと鳥の声を聞きながらジワジワと訪れる恍惚感を味わう……あぁ、なんという幸せ!
 ずっと温泉とサウナを楽しむことができるのは日本人だけと思って優越感に浸っていたら、実はアメリカのヒッピーたちはもっと極上の体験をしていた!という衝撃の事実に若干悔しさを覚えました。しかしこの「温泉→サウナ→小川」を3セット繰り返しているうちにそんな嫉妬心も全て洗い流され、まさに心身ともにデトックスされたのでした。
 でも実は私たちがここに来た第一の目的は温泉&サウナを楽しむことではなかったのです。ここ、スチュワート・ミネラル・スプリングスでは敷地内にて、毎週土曜日にネイティブアメリカンによるスウェット・ロッジという伝統的な浄化の儀式が行われており、私たちはそれを体験しに来たのでした。無邪気な好奇心だけでここまで来たのですが、その後スウェット・ロッジを体験してみると軽い好奇心で参加したことが大きな後悔へと変わっていったのでした……そのスウェット・ロッジの体験についてはまた次回!

流れる小川を石で囲んでせき止めたなんとも贅沢な天然の水風呂。

Stewart Mineral Springs
4617 Stewart Springs Road Weed, CA 96094 USA
TEL:+530-938-2222

http://www.stewartmineralsprings.com/

大智由実子

ライター

洋書のディストリビューションを行うMARGINAL PRESSを立ち上げ、世界各国のインディペンデントマガジンやアートブックを日本に紹介。2016年よりサウナの魅力にはまる。趣味は世界のサウナ巡り。サウナ・スパ健康アドバイザーの資格も持つ。
https://www.marginal-press.com/

ほりゆりこ

イラストレーター

1978年大阪生まれ。デザインやイラストの本職のかたわら「大自然と一体化」をテーマに主に関西を拠点に活動するTent Sauna Partyに所属。著書にタナカカツキ(日本サウナ・スパ協会公認)との共著『はじめてのサウナ』がある。また、リトアニアのサウナハットアーティスト、ヴィクトリアからワークショップを受け「TSP式サウナハット」を考案・制作。お気に入りのサウナは「延羽の湯・鶴橋店」
http://tentsaunaparty.com/