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Column

2018.08.31

世界サウナ紀行 Vol.5 Destination : Kaunas (Lithuania)

文、写真/大智由実子

イラスト/ほりゆりこ

ペルクーニヨス・ピルティスの外観。手前には池があります。

さー、まだまだバルト三国のサウナ旅は続きますよ。ラトビアのバルタピルツでの極上体験に後ろ髪を引かれつつもバスでお隣の国、リトアニアへ。向かった先は第二の都市カウナス。そしてお目当てのサウナは街の中心部から車で30分ほど行った、森や畑が広がる牧歌的な風景の中にぽつんとある家族経営のペルクーニヨス・ピルティス(Perkūnijos Pirtis)というところです。「ピルティス」とはリトアニア語でサウナのこと。ラトビアでは「ピルツ」と呼んでいたのでちょっと似てますね。
 ここは、おだやかな笑顔が素敵なアウドラさんという女性と優しい旦那さんのロバートさんの二人で経営していて完全予約制、プライベートサロンのようにみっちり、たっぷり、フルコースでリトアニア式のサウナを体験できます。
 まず着いた先で目に飛び込んできたのは、広大な自然の中に建つログハウスとその手前にある池。そうです、リトアニアもフィンランド同様にサウナの後のクールダウンは人工的な水風呂ではなく、自然の池や湖に飛び込むようです。行く前の予習で、リトアニアは未だに自然崇拝が根強く残る国で、サウナも完全にナチュラル志向でしかもスピリチュアルな要素が含まれていると聞いていたので胸が高鳴ります。そしてアウドラさんが迎え入れてくれたログハウスの中も、壁にさまざまな種類の植物の束がドライフラワーのようにたくさん吊り下がっていて、期待値はさらに上昇。

サウナ室の中。2人同時に施術ができます。

未知の施術がスタート。 最高潮の期待はいかに

 私は友人(女性)と二人だったので、サウナ室の中は裸で、施術はアウドラさんが行ってくれました。しかし実際のところ、それは“施術”というよりは“儀式”と言ったほうがしっくりくるような感じでした。
 まず初めに水の入った銀の器を差し出され、「ここに手を入れてあなたの願いを唱えてください」と言われました。まったく予想をしていなかったので、慌てて漠然とした願いを唱えると、アウドラさんがその器の水を「Let it go」と言いながらストーブの炎の中に投げ入れました。サウナの精霊が願いをかなえてくれるとのことでなんだかもう始まりからスピリチュアル全開!
 ストーブに投げ入れた水の蒸気で満ちた薄暗いサウナ室の中で、さまざまな種類の植物の束をアウドラさんがゆっくりと振り始めます。目を閉じ、深呼吸しながら香りを吸い込むと、アウドラさんがそれぞれの植物の名前とその効能を教えてくれます。ハーブや花の香りにうっとりしていると、次第に儀式の世界に入り込む準備が整っていくようでした。
 そしていよいよ儀式が始まります。ヴィヒタと呼ばれる白樺やオークの枝葉を束ねたものを枕として仰向けになったところを、アウドラさんがヴィヒタを使って全身をファサファサと心地よくたたいてマッサージしてくれます。お次はうつ伏せにになり、顔を柔らかな葉っぱの中にうずめ、背面側もくまなくヴィヒタでマッサージ。全身葉っぱまみれですが、正直言って、気持ちよくて、もうこの時点で昇天寸前でした。ちなみに、このサウナ室の中でヴィヒタで身体をたたくマッサージはフィンランドやロシア、バルト三国などで「ウィスキング」や「ランバスティング」などと呼ばれており、マッサージをしてくれる人は資格を持ったマスターで、そのほとんどが男性なのです。私は男性からウィスキングを受けたことはないのですが、受けた人から聞くところによるとかなり強くバシバシたたかれて身体が赤くなるほど、とのこと。女性のアウドラさんももちろん資格を持ったマスターですが、彼女のウィスキングはやはり女性らしい優しいものだったので、好みはあるかと思いますが女性の方には女性のマスターによるウィスキングをおすすめします。
 ヴィヒタの葉っぱまみれマッサージの他にも、森で摘んできたベリーの実と塩を混ぜたもので身体をゴマージュしたり、はちみつを使ってマッサージ&トリートメントしたり……とにかくオールナチュラル、100%オーガニックというなんとも贅沢な施術が続きます。全ての施術はサウナ室の中で行われるので、ひとつの工程が終わるごとにシャワーを浴びてバスローブを羽織り、リビングで休憩を取ります。しかもアウドラさんがハーブティーにパンとはちみつ、ベリーの手づくりジャムなどをふるまってくれます。

落ち着いた雰囲気のリビングルーム。奥に見えるドアの先がサウナ室。

施術の至福に浸り もはやサウナを超えた体験

 あまりにもリラックスしてしまい、私はふにゃふにゃ、まさに骨抜き状態に。そしてサウナ室とリビングを行ったり来たりしているうちにだんだんと夢と現実の区別がつかなくなってきたのです……。
 頭が朦朧としてきた後半戦、サウナ室を出てシャワーを浴びようとしたところ「今度はシャワーではなく外の池に行きます」と。「え、今? 裸なんですけど……」と頭の片隅で思いつつも流れに身を任せることに。足元がおぼつかないのでまるで酔っぱらいの介抱のようにアウドラさんと友人の肩を借りながら千鳥足でヨロヨロと全裸のまま外の池まで行きました。11月のリトアニアは雪も降るほど寒いので池の水も冷たかったのですが、言われるままにスーっと入水。「頭まで中に入って」との指示に従い頭までドボンと水に入り、池から出たらまた肩を借りて部屋に連れていかれます。そこで横になるやいなや、アウドラさんが慣れた手つきでタオルと毛布を使って赤ちゃんのおくるみのように私の身体を包んでいきます。意識が朦朧としたまま、暖かな毛布に包まれ、ドクンドクンという自分の鼓動しか聞こえず、とてつもない安心感と懐かしさを感じました。どうやらこれは生まれ変わりの儀式だったようです。ちなみにリトアニアでは古くから輪廻転生が信じられているそうです。
 その後、寝落ちしてしまったため、完全な記憶でなくうろ覚えですが、目が覚めてまたサウナ室に戻ってからもスピリチュアル全開な儀式が続きました。アウドラさんが砂の入った長い筒を使ってサラサラサラーっと癒される音を聞かせてくれて、締めくくりは精霊に捧げるリトアニアの伝統的な歌を唄って終わりました。
 一回あの世に連れていかれて天国を見させてもらい、そして生まれ変わってまたこの世に戻ってきたような感覚。時計を見たら5時間近くが経過していました。なんだかもう浦島太郎の気分。
 自然の恵み(しかも全て超オーガニック!)を五感でフルに感じて、スピリチュアルな要素もあり、そして最後は新しい自分に生まれ変わる……うーん、リトアニアのサウナって、私が思っていたよりずっと奥深くて神秘的!

Perkūnijos Pirtis
Pajiesių gatvė 18, Pajiesys 53293

TEL : +370 610 27921 (アウドラさん)
営業:12:00〜24:00
http://www.saunaspa.lt/

大智由実子

ライター

洋書のディストリビューションを行うMARGINAL PRESSを立ち上げ、世界各国のインディペンデントマガジンやアートブックを日本に紹介。2016年よりサウナの魅力にはまる。趣味は世界のサウナ巡り。サウナ・スパ健康アドバイザーの資格も持つ。
https://www.marginal-press.com/

ほりゆりこ

イラストレーター

1978年大阪生まれ。デザインやイラストの本職のかたわら「大自然と一体化」をテーマに主に関西を拠点に活動するTent Sauna Partyに所属。著書にタナカカツキ(日本サウナ・スパ協会公認)との共著『はじめてのサウナ』がある。また、リトアニアのサウナハットアーティスト、ヴィクトリアからワークショップを受け「TSP式サウナハット」を考案・制作。お気に入りのサウナは「延羽の湯・鶴橋店」
http://tentsaunaparty.com/