『花椿』夏号では、「Beauty Innovations」についての考えを深めるために、さまざまなフィールドで活躍する方に「あなたにとって美しい世界とは?」という問いを投げかけています。
今回は作品集『ZEEN』の刊行を記念し東京・恵比寿のアートブックショップPOSTにて個展を開催中で、『花椿』春号の「WE LOVE PHOTOGRAPHS!」にご登場いただいた、オランダを代表するアーティストユニット、シェルテンス&アベネスのお二人にお話をお聞きしました。写真を使ったアートワークを手がける二人は、マルジェラやエルメス、COSなどファッションブランドとも数多くコラボレーションを行っています。今回は3度目の来日、日本に対する思いや「美」についてのアイデアを伺いました。
―今回の写真集、展示について教えてください。
リスべス・アベネス(以下、アベネス):この春、オランダのFoam写真美術館で、私たちにとって初めての美術館個展「ZEEN」を開催したのですが、その展覧会の作品集を縁あって日本の出版社(CASE Publishing)から出すことができました。これまで仕事のために2度訪れたことがある日本は私たちにとって特別な国です。その美意識にはいつも感銘を受けてきたので、せっかくの機会ということで日本の方に作品を見ていただきたい、と個展を東京でも開催してもらうことにしました。
モーリス・シェルテンス(以下、シェルテンス):展覧会、写真集のタイトルの『ZEEN』(ジーン)というのは、それ自体は「腱」とか何か引っ張り合うものを意味するのですが、「(マガ)ジン」や日本の「禅」、オランダ語の「見る(zien)」、などことば遊びのような感じで色々な意味を持たせています。展覧会では2004年頃の活動初期からのさまざまな作品をミックスして再構成しました。ただ壁に飾られた作品を見てもらうというよりは、私たちのものの見方を共有してもらいたかったので、撮影セットを再現したりするなど、イメージを体感できる展示になるように注力しました。
アベネス:基本的にブランドのコミッションワークから作品の創作が始まることが多いのですが、私たちはかなり自由度が高いクリエイションをさせてもらっています。だいたいコアとなるコンセプトを聞いてから自由に想像をめぐらせ、話し合いながら作品のイメージをつくっていきます。ぼんやりとしたアイデアが固まったら、スケッチなどは描かず、実際にカメラの前にオブジェを置いて撮影を始めます。チェスのようにお互い交互にオブジェを動かしたり置き換えたりして実験しながら、完成の「画」を求めて作業していくんです。バックグラウンドが私はアート、シェルテンスは写真なので視点が異なり、お互い説明したり、批判したり説得しながら、カメラを通してオブジェクトを見つめながら作品を完成させます。「これだ!」という最終的なイメージにたどり着いたと納得したら、それまでの過程のイメージは全部廃棄。たった一枚を目指して山を登っていく感じですね。長年そのスタイルでやっているので、チームワークが出来上がっているんだと思います。
―日本の文化や美意識に対しての思いなど教えてください。
アベネス:今回日本の出版社と仕事をしてとても面白かったのが「本」というモノに対する視点の違いでした。私たちはつい本の中身についてばかり考えてしまいがち。何を載せるか、どういうコンセプトにするか、構成は……そればかり考えていたのですが、日本側とのミーティングでは印刷加工や造本に関することにもすごくこだわりを感じました。今回もいつも仕事を一緒にしているオランダ人のデザイナーがデザインを担当したのですが、私たち結構神経質なほうだと思っていたんだけど(笑)、日本の人たちの視点はさらに細やかで驚きと感動がありましたね。それはコラボレーションによって得られた、文化的違いに関する新しい気づきですね。
シェルテンス:でもそう思うと日本の社会のさまざまな場所で、そういった高い美意識を感じることができるし、日本は細部に対して本当に気配りがされている。“わびさび”という言葉が表す「不完全さの中に潜む完成された美」なんて……ことばで説明されてわかったような気になるけどまだまだわからない! でもその片鱗は、街を歩いているだけでも感じますよ。例えばこのPOSTのビルも、恵比寿のメゾン マルジェラが入っているビルでもそうだけど、古いけど美しくメンテナンスされている。何かこう、リスペクトを感じるんです。何もかも清潔ですしね。
―確かに掃除は大切な文化の一部かもしれません。小学校では掃除当番があって、自分たちの教室を毎日掃除しますしね。
シェルテンス:え! それはすごいですね。オランダも整理整頓好きだし、相当綺麗な国だと思うんですよ。でも日本はもっと文化としての掃除、「清める」というスピリチュアルな行為を感じます。例えば僕たちの作品「Zen Garden」(2013)は禅庭園を模してスタジオにつくったセットなのですが、石庭の石を鍋に見立て、かき混ぜる動作でまわりの砂を作庭してみました。これも、僕たちから見た日本の美しい振る舞いに対するリスペクトなんです。
―素材や質がもつ美しさを捉えていらっしゃいますが、そもそも「美しさ」「物事の本質」とは何だと思いますか?
シェルテンス:美しさは日常に潜むものだと思います。僕たちの作品はいつも、そういった日用品に潜む美しさや驚きの可能性について語っています。例えば、ターンテーブルの上にゴミ袋を置いて回転させて写真に撮ると、デザインされた彫刻に見える作品(『Hidden Objects』 2006)や、COSのコミッションワークでつくった、世界中のホテルの石けんを集めて並べた写真など、日常目の前を通過しているオブジェクトにこそ、美の可能性が潜んでいる。また行為についてもそうで、歩くこと、掃除するときのリズムなどは実はとてもスピリチュアルで、美しさを孕んでいるんです。そうやって細部に注意を払い、よく見つめること。それが作品を通じて言いたいことですね。今回東京に来て、何よりも自分たちのオランダでの日常について思いを馳せることが多くありました。大きなインスピレーションを得られて、とても嬉しいです。
Scheltens & Abbenes
モーリス・シェルテンス(1972年生まれ)とリスベス・アベネス(1970年生まれ)によるアーティストユニット。2002年に結成し、アムステルダムを拠点に活動する。12年には、ニューヨークの国際写真センター(ICP)よりインフィニティ・アワードを受賞。雑誌『Fantastic Man』など国際的なモード誌でも活躍。初の回顧展「ZEEN」をオランダ・Foam写真美術館で開催したばかり。東京・POSTにて展覧会 「Scheltens & Abbenes / ZEEN」 を7月21日(日)まで開催中。
https://www.scheltens-abbenes.com/