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花椿交差点

2019.09.26

「あなたにとって美しい世界とは?」インタビューvol.5

文/宮越裕生

写真/細倉真弓

『花椿』夏号の「Beauty Innovations」特集からスタートした、インタビューシリーズ。さまざまなフィールドで活躍する方に「あなたにとって美しい世界とは?」という問いを投げかけています。
 今回ご登場いただくのは、アートディレクター/デザイナーの有山達也さん。デザイナーならではの視点で「音」の世界を掘り下げた新刊『音のかたち』(リトルモア)についてのお話と、有山さんの考える「美」についてお聞きしました。

—この度刊行された『音のかたち』について教えていただけますか?

高校生の頃に初めてレコードを買って以来、レコードとオーディオを集め続けているのですが、写真家・齋藤圭吾のレコード針とレコードの溝を撮った写真集『針と溝』(本の雑誌社)のデザインを手がけたときに、「いい音」ってなんだろうとか、なぜ音が出るんだろう、とか、そんなことを考えるようになったのです。それで彼とその写真集の続きみたいなことができないかな、と取材を重ねたのがこの本です。レコードを顕微鏡で拡大してみたり、オーディオメーカーの人や、レコードプレイヤーのフルレストアをしている人に話を聞いたり、音が鳴る仕組みを学び直してみたり……自分たちでアポをとり、取材しました。

『音のかたち』(リトルモア)
TOMOKAWA KAZUKI/ikiteirutte ittemiro 1974/stereo/7inch/45rpm
photo/Keigo Saito

—オーディオ界の隠れた名工から巨匠的存在の方々まで、プロフェッショナルの製作現場の様子にわくわくさせられました。有山さんも事務所の地下に数千を超えるレコードとヴィンテージオーディオをコレクションされているそうですね。

男子の部室のような感じです(笑)。同じレコードでも、最初にプレスされたファーストプレスと再発盤を聴きくらべると、音が違うんですよ。モノラルとステレオでも違う。また、それを録音したエンジニアをはじめ、演奏者を周りで支えている人たちによっても変わってくるんです。そういうことをレコードの音から見たり考えたりするのがおもしろい。オーディオに関しては、レコード針から拾われた振動がスピーカーから音として流れ出てくるまでの間のことがおもしろいですね。

—その辺りの仕組みは、素人にはなかなか難しいですね。

僕らにも難しいですよ。ただ、レコードやオーディオ機器をつくっている人たちがどういうことを考えてつくっているかということを知りたいので、実際に会いにいって、見たり聞いたりする。そういうことは、『藝える』(東京藝術大学発行)や座・高円寺のフリーペーパー、『雲のうえ』(北九州市の情報誌)のアートディレクションで行っていることと一緒です。基本的には自分たちの関心がベースにあって、おもしろいか・おもしろくないか、そこが基準になっています。

—デザイナーとしてキャリアをスタートされて、アートディレクションを手がけていくうちにそういったスタンスになっていかれたのでしょうか?

紙媒体のディレクションを始めた頃、現場がどうなっているのか、全くわからなかったんです。そこでとにかく取材現場に同行し、誌面をどうするかということを考えつつ、インタビューや撮影をしているところを見ていたんです。そのうちに「本当にそのインタビューでいいの?」「そのコピー必要なの?」などと思うようになり、中身のことにも意識が行くようになりました。本を買う決め手になるのは、デザインだけではないじゃないですか。「このままじゃこの本はおもしろくなくなる」と思うと、つい口を挟んでしまいます。デザインも、カバーに力が入り過ぎているものより、外はシンプルだけど中身がおもしろい、というほうが好きなんですよね。

—今回の本では「音」をテーマにされています。音との印象的な出合いはありましたか?

それぞれ印象に残っていますが、ロンドンにジャズやクラシックの名盤をオリジナルとほぼ同じ方法で製作しているThe Electric Recording Company(ERC)というレコードレーベルがあるんです。そこで聴かせてもらったビル・エヴァンスのマスターテープは、凄くいい音でした。大音量で聴いても、耳が痛くならない。生でありながら自然で、目指す音のひとつ、といいますか。この本に出てくるのは、小さい頃から工作をしていた人がそのまま大きくなって、神業的な仕事を手がけている人ばかりです。そういった人たちの仕事から教わることは多いですね。

Pete Hutchison

—最後に、有山さんは「美しさ」というものをどんな風に考えていらっしゃいますか?

おそらく、サーフェス(表面的)とは違うかな。仕事で各地を回ると、その土地土地で頑張っている人たちの生き方や言葉に感銘を受けるんです。たとえば、とてつもなく大きな物の解体作業を設計しているおじさんであったり、焼鳥屋の大将であったり。何というんだろう。「俺が俺が」と前に出るような生き方をしている人たちではなく、無心に何かに打ち込んでいる人たちの美しさといいますか。それを美しさといっていいのか、わからないですけれど。

—そういう人たちに会いたいという気持ちが、現場へ行くモチベーションの一つになっているのでしょうか。

それはありますね。千葉県銚子市に、1950〜60年代のトーレンスTD124というレコードプレーヤーを解体して清掃、修復して販売しているグレイというオーディオショップがあるんですよ。そこに竹内恵吾さんという方がいらっしゃいます。1日中パーツを磨いて……、本当にとにかく磨いて磨いてをくり返し、納得いくまで調整しています。あるとき、竹内さんがお祈りをするようにひざまずいて、モーターの音を聞いてたんです。「音がおかしい」と言って。それから2ヶ月後ぐらいに行ったら、「まだ良くならねえだ」と言ってまだモーターの音を聞き、調整し続けていたんです。その方の話を聞くのも、すごくおもしろいです。そういうめちゃくちゃ格好いい人たちが北九州にもいるし、佐賀にも長崎にも高円寺にもいる。彼らの一生懸命な姿に美しさを感じるというのは、たしかにあるのかな。自分の仕事には、そうやって憧れていることや、大事にしていることが端々に出てきていると思います。そりゃ見た目は格好いい方がいいけれど、肝はそこじゃないんだろうな、と思うんです。

有山達也(ありやま・たつや)
1966年埼玉県生まれ。東京藝術大学卒業後、中垣デザイン事務所にデザイナーとして約3年勤務。93年アリヤマデザインストア設立。エディトリアルを中心としたデザイン、アートディレクションを担当。第35回(平成16年)講談社出版文化賞ブックデザイン賞受賞。ミームデザインスクール講師。東京藝術大学非常勤講師。

≪展覧会詳細≫
有山達也展「音のかたち」
会場:クリエイションギャラリーG8
〒104-8001 東京都中央区銀座8-4-17 リクルートGINZA8ビル1F
TEL 03-6835-2260  
会期:2019年8月27日(火)~10月5日(土)
時間:11時~19時(日曜・祝日は休館) 入場無料
http://rcc.recruit.co.jp/

宮越裕生

ライター/編集者

東京造形大学美術学科卒業。ギャラリーや事務の仕事を経て執筆業へ転身。編集者アシスタントを経て独立。雑誌『&Premium』公式サイトなどの執筆・編集に携わる。

細倉 真弓

写真家

東京/京都在住
触覚的な視覚を軸に、身体や性、人と人工物、有機物と無機物など、移り変わっていく境界線を写真と映像で扱う。立命館大学文学部、及び日本大学芸術学部写真学科卒業。写真集に「NEW SKIN」(2020年、MACK)、「Jubilee」(2017年、artbeat publishers)、「transparency is the new mystery」(2016年、MACK)など。
http://hosokuramayumi.com