ウェブ花椿で連載中の「銀座時空散歩」。寺尾紗穂(文)、大森克己(写真)のコンビによる人気企画のスピンオフ版として、2016年11月に新装刊した『花椿』0号では、戦前の流行歌「洒落男」を題材に、寺尾によるエッセイと大森の写真を掲載しています。
ここでは、文筆家であり音楽家でもある寺尾が、エッセイの主題である「洒落男」をカバーしたオリジナル音源を公開。寺尾が歌う「洒落男」を聴きつつ、昭和初期の「同時代人が見た等身大の、人間臭い銀座」(寺尾紗穂『花椿』0号エッセイより)を想像してみてください。
「洒落男」
作詞:坂井透、作曲:Frank Crumit
ボーカル・ピアノ:寺尾紗穂、ベース:伊賀航
1
俺は村中で一番
モボだと言われた男
己惚れのぼせて得意顔
東京は銀座へと来た
2
そもそもその時のスタイル
青シャツに真っ赤なネクタイ
山高シャッポにロイドの眼鏡
ダブダブなセーラーのズボン
3
吾輩の見染めた彼女
黒い瞳でポップヘアー
背が低くて肉体美
おまけに足までが太い
4
馴れ染めの始めはカフェー
この家は私の店よ
カクテルにウィスキーどちらにしましょう
遠慮するなんて水臭いわ
5
言われるままに二、三杯
笑顔につられてもう一杯
彼女はほんのり桜色
エッヘッヘしめたぞもう一杯
6
君は知っているかい僕の
親父は地主で村長
村長は金持ちでせがれの僕は
独身でいまだに一人
7
アラマアそれは素敵
名誉とお金があるなら
たとえ男がまずくても
私はあなたが好きよ
8
おおいとしのものよ
俺の体はふるえる
お前とならばどこまでも
死んでも離れはせぬ
9
夢かうつつかそのとき
飛び込んだ女の亭主
ものもいわずに拳固の嵐
なぐられて吾輩は気絶
10
財布も時計もとられ
大事な女はいない
恐いところは東京の銀座
泣くに泣かれぬモボ