森岡書店代表の森岡督行さんが、銀座の過去、現在、そして未来をつなげる新しい物語です。
時の人々が集い、数々のドラマが生まれた銀座には、今もその香りが漂っています。1964年頃に銀座を撮り続けていた写真家・伊藤昊さんの写真とともに、銀座の街を旅してみましょう。
現代銀座考 :XV 銀座三越の伊藤昊写真展
『現代銀座考』で写真を掲載している伊藤昊の写真展が、2020年11月22日(日)から12月8日(火)にかけて、銀座三越(*)本館7階「銀座シャンデリア スカイ」で開催されています。「銀座シャンデリア スカイ」は、銀座三越内に新設されたパブリックスペースで、大きな窓からは、銀座4丁目交差点をきれいに見渡すことができます。この角度からの眺望はこれまで見たことがありませんでした。本展が「銀座シャンデリア スカイ」のこけら落としとなりました。
伊藤昊は、東京オリンピック開催に湧く1964年秋の銀座を撮影し、そのうち150枚ほどを現像しています。そのなかから、本展のメインビジュアルとして、上掲の写真を選びました。選択の決め手になったのは、以下の二つ理由です。
ひとつ目は、なんといっても、銀座三越のエントランスで撮影された写真だからです。着飾った男女は、おそらく新婚の夫婦でしょう。男性は白手袋をしているのですが、当時、新婚旅行の際に、白手袋をする風習があったと聞きます。女性は、秋にしては毛皮のコートを着て、いかにも厚着です。もしかしたら、北海道など、すでに寒い地域から、新婚旅行とオリンピック観戦を兼ねて来たのかもしれません。男性の持つ四角いカバンと、女性が持つ網の手提げには、同じタグが付いています。飛行機で羽田空港に降りたち、モノレールに乗って浜松町駅を経て、いま銀座に到着したというルートが想像できます。女性の視線の先にあるのは三愛ドリームセンターでしょう。いくつもの未来が立ち現れたことへの驚きの表情のようです。1964年の銀座三越は、内にも外にも、希望や夢があふれていました。前途洋々の新婚旅行になったことでしょう。そういえば、11月22日はいい夫婦の日でもあります。
二つ目は、実はこれは文筆家の大竹昭子さんが気づいた視点なのですが、通りを歩く女性と、銀座三越のなかから出てくる男性が、風呂敷で何かを包んで持ち歩いていることです。
ここからは私の意見です。2020年11月22日現在、日本におけるコロナウイルス感染症は第3波をむかえ拡大しています。コロナ禍にはさまざま要因があるのでしょうが、人類による生態系の破壊が影響しているという意見を目にしたことがあります。いずれにしても、いまサステナブルな観点が求められているのは確かなことです。出来ることから無理なく取り組むとき、買い物袋を無くす、というのは比較的容易にできることのひとつです。風呂敷を持つ習慣が見直されてしかるべき時期にさしかかってきました。そんな観点からもこの写真を選びました。
ぜひこの機会に「銀座シャンデリア スカイ」にお出かけください、素晴らしい銀座の眺望も待っています、と必ずしも大きな声で言えないのが、昨今のコロナ禍の現状でもあります。でもそこにも希望があるとするなら、この写真のなかにあった新しい未来とは方向性のちがう、また別の新しい未来が、すぐそこに待っているということではないでしょうか。
銀座三越:中央区銀座4-6-16