次の記事 前の記事

FASHION STORY

2022.12.26

UPDATE FASHION vol.00 現代に漂う“豊かさ”- 渡邊聖子

写真/渡邊 聖子

過渡期であるいま、時代の“豊かさ” を映すファッションは何を表しているのでしょうか?

ファッション新連載「UPDATE FASHION」は、現代のファッションをさまざまな角度で捉えようとする試みです。そのプロローグ vol.00としてお送りするのは、「現代のファッション観」についての考察。時代時代に変わりゆくファッションの価値観、その現在の姿を、アーティストコレクティブCulture Centreに参加する作家の作品を通して考察していきます。今回は渡邊聖子さんの作品をご紹介します。

ゆれる時代、捉えどころのないファッションという名の現象を探して。

 

友人と彼女の服と旅の記録を撮り、制作しました。

友人の服は私にとって特別なものとして輝いてみえていました。例えていうなら、彼女は私の知らない言葉を話しているけれども、すごく素敵な何かを話しているのがわかる、というような。その素敵な何かを話してみたくて、彼女のようになりたくて、私は数年来彼女のファッションの真似をしてきました。ありがたいことに友人は大らかにそんな私を受けとめてくれていました。

彼女のようになりたいという自分の気持ちを見つめていると、それは以前にも感じたものだと気づくようになりました。強い憧れであり、太陽をみているような眩しさ、それは私が幼い頃、母のようになりたかった気持ちでした。時間が経ち、そう感じていた私は母に傷つけられた娘のひとりとして成長していきました。(いわゆる母娘問題は母と娘だけの問題ではない大きさと複雑さを感じています。)それからまたさらに時間がすぎ、形にならない制作を繰り返しながら、ゆっくりと、非常にゆっくりとですが、私は自分の傷を癒すようになりました。友人と初めて会ったのもその頃です。

この作品において旅とは治癒を目指す行程であり、方法であり、様々な経験の比喩です。飛行機の窓、パーティーのDJ、ホテルの部屋の鏡。また花のイメージ(写真だけでなくDJの女の子の網タイツのデイジーも)は再生を祝うメッセージとして表れています。また、彼女たちのようになりたい、一体化したい気持ちから、私自身や私の生活環境も映り込んでいます。

母のようになりたかった気持ちを私が取り戻したことと、はからずもそこに導いてくれた友人との関係からこの作品は生まれました。関係することに(つまり表現することに)特別な技術はいらないという思いから、手持ちの古いiphoneと同じく壊れかけのプリンターを使いました。紙片のようなこれらの作品は、これからも続く私たちの会話であり、私自身の歌であり、歌詞の未だわからない女性賛歌ではないかと思っています。

―渡邊 聖子

 

 

渡邊 聖子
鳥取生まれ。2002年に早稲田大学第二文学部を卒業し、写真を存在論のように捉え、写真、詩、歌詞、インスタレーションを組み合わせて制作、石・砂・花・ガラスなどをもちいた表現は浮遊感と治癒、破壊を漂わせる。2008年と2013年にキヤノン写真新世紀の佳作を受賞。本拠地である横浜と東京を中心に展示や滞在制作を行う。2013年に作品集「石の娘」(A-press)を出版。2021年にはベルリンにてグループ展「Cancelled Order」に参加、2022年前半には個展「Parfüme」(cy/鎌倉)、滞在制作「Parfüme・火・自分だけの部屋」(たけのま/横浜)を続けて発表。