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Column

2021.11.12

今を生きる私たちが、未来の誰かの幸せのためにできること #Tree -木を知り、木と暮らす。-

Photography / Koji Honda

Text / Shiori Fujii

model / Miyu Otani

Styling / Kaori Kawakami

Hair & Makeup / Hiroko Takashiro

Cooperation / kontakt

この記事は、『花椿』2021年秋冬号(No.829)からの転載です。
「BAUMオークの森」近くの岩洞湖付近の森にて。

Dress; Rodebjer (EDSTRÖM OFFICE) Shoes; Paraboot (Paraboot AOYAMA) Wood Cuff, Wood Earrings; su Ha

森林の面積が国土の三分の二を占める日本では、さまざまなものに木を使い、共に暮らしてきましたが、いつの日か、私たちの生活から森や木の存在が遠く離れてしまいました。東京に育ったモデルの小谷実由さんと、木の博士と呼ばれる住友林業の森林・緑化研究センター長の中村健太郎さんが今あらためて、森や木と私たちの関係性について考えました。

木と暮らしてきた私たち

小谷実由(以下小谷) 自然や森と共に育ったわけではない私ですが、木がたくさん生えている大きな公園は身近にありました。木立の間を歩くのは、とても気持ちがいい。特に夏は涼しく感じるし、コンクリートジャングルとは体感温度が違うなと思います。
中村健太郎(以下中村) 森は五感で感じられるんですよね。森林浴は、木から出ている物質を、無意識のうちに嗅覚で感じているということ。日本人にとって昔から木が身近にあることは当たり前で、今も周りを見渡せばきっと、いろいろなところに木が使われていることに気づくはずです。『古事記』にも、日本人と森のエピソードが書かれているくらい、日本人は森と共に生きてきた民族です。
小谷 使い続けて、木はなくならないのか心配になります。世界に目を向けると山火事のニュースなども増えているし……。
中村 山火事は、地球温暖化により加速しているように思います。根本的な解決には、地球の温度を下げないといけない。先進国のフォローも大切です。
そのためのキーワードが、サーキュラーバイオエコノミー(循環炭素経済。循環型共生経済とも訳される)です。大量生産・大量廃棄の経済ではなく、バイオ由来の資源の利活用を進め、石油資源の利用による環境負荷を低減し、持続可能な経済の確立を目指すもの。木に関して言えば、ここまでは使っていいという量を、森の成長するスピードと合わせて把握していく必要があります。
小谷 私の身の回りで木を多く使っているものは何だろうと考えたら、本でした。環境のことを考えたら本もダメかな、なんてれていれば、使い続けていけるんですね。
中村 日本では逆に、木が余っているのが現状です。なぜかというと、コンクリートなどの木材以外の素材が多用されてきたため、木を植えても売れないからと放棄されてしまった森が多い。家具職人や大工など、木に携わる職人も減ってきています。
そして実は、木が成長していくとある時点でCO2を吸収しなくなってしまうんです。
小谷 そうなんですか!
中村 高齢化した森が増えていることは、地球温暖化にとってはマイナスス。森の新陳代謝のために木材として使っていくことも大切です。自然の森を守りつつ、自分たちが使う材としての木を植えながら、成長した分だけを使っていくのが理想なんです。
小谷 自分たちが使うために木を植えていく。天然の森とは違うんですね。
中村 実は日本は原生林、天然の森は少ないんです。沖縄の西表島も、人の手が入っていて、二次林がひろがっているんですよ。
小谷 それは驚きです。単純に「森にはパワーがある」なんて思っていたけど、人間がつくった森なんですね。
中村 いや、二次林だって自然がみずからの力で育っているものなので、大地からもたらされたエネルギーを集約した樹木には素晴らしい生命力があると思います。木の圧倒的な生命感に、昔の人が神が宿ると感じたのも納得です。
 また、木は切られて、加工された後も、CO2を蓄え続けてくれています。だから木材をすぐ燃やしてしまっては意味がない。木を素材にしたものが燃やされるまでの寿命として、紙は2年、木材は年と言われていますが、現代の家は、さらに耐久性が高くなっていると思います。

貝や石、木などの実際に守屋海から取り出した生物起源の素材をジュエリーに使用している「su Ha」のバングルとともに

小谷 サーキュラーバイオエコノミーを実現するために、いち消費者としては何ができるのでしょう。牛乳パックを洗ってリサイクルに出すくらいの、背伸びせずにできる気軽なことだったら続けていけるかなと思うのですが。
中村 消費者もその循環の一部だと考えてもらいたいですね。木や森の循環に配慮した商品を意識して購入することも大切です。資生堂のスキンケアを中心としたブランドBAUM(バウム)もそうですね。
小谷 BAUMの店舗には苗木を育てるコーナーがあって、成長後に岩手県の「BAUMオークの森」(※)に植樹するんですよね。
中村 単に「温暖化対策で木を植えましょう」と言っても遠い感じがするけれども、ここにある苗木が、100年後にこの化粧品の一部になるかもと思うと、自分も自然の循環の一部なんだと感じられますよね。BAUMの木製のパーツを廃棄したときにはCO2を排出しますが、店頭から森へ送り出した苗木が育って、そのCO2を吸ってくれる。CO2が循環していくことで、カーボンニュートラルが実現できます。
小谷 私は見届けられるかな(笑)。でも100年後の未来を考えながら木を見たり、商品を買ったりすることは壮大なロマンが感じられますね。環境について現状は課題が多くて不安な気持ちになることが多いですが、中村さんのお話を聞き、まずは自分のできる範囲で前向きに環境や自然と向き合っていくことが大切なんだと思いました。

※パッケージの木製パーツで使用しているオーク(ナラ)等の苗木を中心にBAUMストアで大切に育て、岩手県立自然公園の森林に植樹し、保全、育ったら採取し、再びBAUMに活用するという循環を目指している。

小谷実由(おたに・みゆ)
モデル。1991年東京生まれ。ファッション誌やカタログ・広告を中心に、モデル業や執筆業で活躍。一方で、さまざまな作家やクリエイターたちとの企画にも取り組む。昭和と純喫茶をこよなく愛する。
@omiyuno

中村健太郎(なかむら・けんたろう)
住友林業株式会社 森林・緑化研究センター・研究センター長。1966年神奈川県横浜市生まれ。東京農工大学大学院で樹木の組織培養を学ぶ。94 年住友林業入社。インドネシアの熱帯雨林からネパールの亜寒帯林までさまざまな場所での植林を進めると共に、寺社仏閣の名木や奇跡の一本松などの貴重な樹木の増殖を手掛ける。「BAUMオークの森」では、苗木生産から植樹までをサポート。