アメリカのバンド、The CRAMPSは1970年代に活躍したバンドである。独特のガレージ・ロックサウンド、そしてSM風のボンデージ衣装やグラム調の化粧などが鮮烈な印象を残し、カルト的な人気を誇った。毎シーズン新奇なスタイルで見るものの感覚を刷新するアクネ ストゥディオズの今コレクションに影響を与えたのが、そのThe CRAMPSだ。
「ずっと彼らのファンだった。挑発的で、アグレッシブで。彼らの何事にも動じない筋のとおった態度が魅力的」と語るアクネ ストゥディオズ クリエイティブディレクターのジョニー・ヨハンソンは、彼らのその姿勢とブランドがもつコンテンポラリーな感覚を融合、全34体のルックの中にさまざまな色や素材をちりばめ、それらをカットアップ、コラージュするように一つひとつのユニークで挑発的なスタイルを作り上げた。
“挑発”的といえども、それはかつての刺々しいロックやパンクスタイルのようなものではない。むしろ色味はカラフルで、シルエットは大きめ。余裕を感じさせるクールさとしなやかな強靭さを感じさせる、強いスタイルだ。その新しいスタイルを完成させるメーキャップのポイントは大きく三つ。
01 NO MASCARA, NO BLUSH, NO EYEBROW
メーキャップのチーフを務めたSHISEIDO メーキャップ アーティスティック・ディレクター、ディック・ページは「ファッションがとても強い印象なので、メークはごくシンプルに、美しく」と、メーキャップは潔くノーカラーとした。ファンデーションは赤みを抑えたいところなど必要な個所にとどめた。
02 JUST GLOSS & A MATTE FINISH
ただの均一な肌色では、ファッションのインパクトに負けてしまう。肌にもコントラストが必要だ。そこでページは「艶」と「マット」でコントラストをつくり、顔に立体感を生み出した。まず「艶」は上唇の中央や鼻のてっぺんのすぐ下のところ、頬骨の一番高いところなどにリップグロスを塗布してつくる。「マット」部分はコンシーラーを両小鼻と顎、そしておでこにのばし、完成。
03 PLAYFUL MOISTURE HAIR
「思いっきり遊んだあとで帽子を脱いだときの髪、って感じ(笑)」とコンセプトを教えてくれたのは、ヘアのチーフディレクター、ユージーン・ソレイマン。汗で蒸れたような質感、一見無造作だけどエレガントな均衡も匂わせるあたりが当代風。
本番のショーでは、DJミシェル・ゴベールによるThe CRAMPSのリミックスが大音響で流れた。その刺激的な音楽にのせて、かつてであれば「足し」のファッションと「足し」のメーキャップで挑発的姿勢を示したかもしれない。しかし現代の強さはときに「引く」ことをしながら、その強弱のコントラストでもって強い、挑発的なスタイルをつくるのだ。
(花椿編集室 戸田 亜紀子)