ウミット・ベナンが東京にやってきた。ベナンは1980年生まれのトルコ人。スイスやドイツを生い立ちの背景にもつデザイナーだ。2009年にデビュー、2010年のピッティ・イマジネ・ウォモ(世界最大のメンズプレタポルテ見本市)で新人賞を受賞し、以降ミラノやパリでショーを発表してきた。確かなテーラーリング技術にエキゾチシズムとカジュアルさを織り交ぜながら創造するそのコレクションは、世界の人々を魅了している。日本にも度々来日し、これまでのコレクションにも柔道着など日本の衣服を取り入れてきたベナン。今回のコレクションは―――
会場に入るとそこは一面、メキシコだった。正しくはテキサスやニューメキシコあたりのアメリカン・メキシカン、それはジョージア・オキーフが愛した土地であり、ということは米ドラマ“Breaking Bad”の世界に近いのだが、乾いた砂とサボテン、そして背景に流れるスライドギターが象徴的なアメリカ南部の音楽が彼の地の郷愁を誘う。
テーマは“Los Bastardos”。できそこない・畜生、といった粗野なイメージだ。東京の街でスカウトしたアマチュアも混じるモデルたちはラフで、好戦的な印象。彼らのそのままの雰囲気を活かすかたちで、ベースの肌とヘアはナチュラルなスタイリング。ポイントを肌のムラのつくりこみに置いた。南米の照りつける太陽を浴びて自然にできたそばかすや赤みなどを、まゆずみとブラシなどで演出。若く、健康的な印象が際立つ米南部の不良風に仕上げた。
南部のリズムにのって、サンドカラーや陽で退色した独特の暖かい色味のセットアップやウエスタンシャツ、ナチュラルシルエットの白地のパンツ、インディゴカラーのアイテム、そして直接的に太陽とサボテンを描いたニットジャケットなどが登場。インナーのタンクトップやややルーズなトラックパンツ、モデルたちの気取らずに歩く格好に現地の臨場感がある。
最後はマカロニ・ウェスタンの音楽でフィナーレ。これから晩秋を迎える東京だけれど、ベナンが提示したラフで無骨な男性像はヴィヴィッドで、まぶしく映った。
(花椿編集室 戸田亜紀子)