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Rocky’s report from Shanghai
2024.04.26
Vol.46 プレミア都市になった上海
文/令狐磊 Rocky Liang
翻訳/サウザー美帆
3月下旬、1846年創立の「ロエベ」が、ブランド初となる大型の展覧会「CRAFTED WORLD 匠芸天地」を、世界に先駆けて上海で開催しました。会場は1955年竣工のスターリン様式の建築でも知られる「上海展覧センター」。1,600平米の広大な会場を使って、ブランドの歴史、さまざまな素材やクラフト作品、アート作品などが展示されました。
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この旧ソ連テイストの歴史ある建物とブランドの美学が衝突しないよう、ロエベのクリエイティブディレクター、ジョナサン・アンダーソンはオランダの著名建築家レム・コールハース率いるOMAに展示空間デザインを依頼。OMAは会場内に多数の異なるデザインをもつボックスを設えました。展示を巡っていると、それぞれの空間は、そこが「上海展覧センター」だということを忘れてしまうほど豊かで多彩でした。
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また一部の場所で空洞を設けたり、中国風の庭園を半透明で借景するといった手法で、元々の建築空間への敬意も表していました。このような大規模な展覧会の皮切りの場所として選ばれたのが、ロエベ本社があるマドリードではなく上海だったことは、上海に住む者として誇らしいことでもあります。
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4月中旬には「ルイ・ヴィトン2024クルーズ・ファッションショー」が上海にやってきました。舞台は上海龍美術館西岸館。このショーはブランドがもつ旅の精神を象徴すべく、世界中のユニークでインスピレーションに満ちた場所でいつも行われています。過去にはルイス・カーン設計によるソーク研究所、エーロ・サーリネン設計によるニューヨークのJFK国際空港のTWAフライトセンターなどの伝説的な建築物でショーが開催されています。
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その少し前には、エルメスが6年ぶりにメンズウェアのショー「Through the Lines」を上海で行いました。これはCOVID-19後の中国で初のエルメスの大規模イベントで、メンズウェア部門のアートディレクター、ヴェロニク・ニシャニアンが舞台として選んだのは、もとは飛行機格納庫で、現在は建築家の藤本壮介によって改築された西岸アートセンターのN館でした。
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3月下旬にはファッションブランドSupremeが中国における初の旗艦店となる「Supreme Shanghai」を長楽路×富民路エリアにオープン。広いフロアスペースにはマーク・ゴンザレスのアート作品や巨大なスケートボウルも飾られ、このファッションエリアをトレンドのさらなる先端に押し上げたのも記憶に新しいところです。
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そういえば昨年、スターバックスが、オリーブオイルコーヒーの新商品「Oleato」をアジアで一番最初に売り出したのも上海でした。伝説的な創始者兼CEOのハワード・シュルツも上海を訪れ、盛大な発売記念パーティが開かれ話題になりました。た。
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カルチャー面においても上海は中国全体の中心地で、交響楽団、ジャズバンド、演劇、舞踏劇などの中国での初演は、大体上海で行われます。今年アカデミー賞を総なめにした映画「オッペンハイマー」が、昨年中国で世界同時公開されたときも、クリストファー・ノーラン監督は上海を訪れ、数多くの映画館で公開初日イベントに参加しました。これは上海人にとっては1930年代を彷彿とさせる出来事でもありました。当時、上海はアジアで最も早くハリウッドの最新映画を観ることができ、ハリウッドのスターも頻繁に訪れ、その華やかな光景を見るために東京から船で駆けつける人もいたほどでした。
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このように今や上海は、中国国内ではもちろん、時には世界に先駆けて「初出店」「初公開」が行われるプレミア都市へと成長しました。上海市の公式発表によると、2018年5月から2023年12月までの約5年間、上海では4500以上の国内外のブランドが「初公開」イベントなどを開催し、5840店舗(1日平均2.8店舗)が「初出店」。アジアにおける初出店は80店舗以上で国内トップ。今年の第1四半期には新規の「初出店」が450店。これは前年比55%増で過去最高。現在、上海はグローバルな小売業の密集度が世界第2位の都市でもあり、一流国際ブランドの出店率は98%です。
この「初出店」「初公開」といった言葉は、時間的に最初であることもあれば、地理的な領域で最初のものであることもあります。また、小売業やサービス業の隆興や消費者の新しいニーズへの対応を示す言葉でもあり、多くの魅力的なブランドが「初出店」する都市は、明らかに革新に満ち溢れています。
この「初出店」を取り入れることは、現在、上海で新しい商業施設をつくる際の最も注目すべきトピックのひとつにもなっていて、この「初出店経済」を促進させることは消費構造のさらなるアップグレードにもつながると、ある経済学者は語っています。
僕自身は、このコラムのVol.42でも書いているように、黄浦江沿いのエリアの開発が今後さらに進めば、上海はもっともっとイマジネイティブな世界の最先端都市になると確信しています。
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令狐磊 Rocky Liang
クリエイティブディレクター/編集者
上海の出版社Modern Media社が発行するカルチャー誌『生活LIFE MAGAZINE』『週末画報Modern Weekly』などのクリエイティブディレクターを務める。同時に文化とビジネスの新しいスタイルの融合を目指す文化力研究所の所長として『花椿』中国版の制作を指揮するなど多方面で活躍中。
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サウザー美帆
編集者/翻訳者
元『エスクァイア日本版』副編集長。上海在住を経て、現在は東京を拠点に日中両国のメディアの仕事に従事。著書に日本の伝統工芸を紹介する『誠実的手芸(誠実な手仕事)』『造物的温度(ものづくりの温度)』(中国語、上海浦睿文化発行)。京都青艸堂の共同設立者として中国向け書籍の出版制作にも携わる。