Rocky’s report from Shanghai
2023.11.27
Vol.41 White Nights in Wonderland / 白夜幻境 写真家フェン・リーの世界
文/令狐磊 Rocky Liang
翻訳/サウザー美帆
写真界でも評価の高い現代写真美術館「フォトグラフィスカ Fotografiska」がストックホルム、ニューヨーク、タリン(エストニア)、ベルリンに続き、上海にもオープンしました。蘇州河をのぞむ建物の広さは4600平米。アートと都市生活の融合をテーマとしたこのアートスペースは、多くの美術館が17時には閉館する中で、深夜23時まで開館する方針です。
”蘇州河岸のアートパーティー”をテーマとした10月下旬のオープニングイベント「Art by the River」では、光と影が幻想的に息づく空間が構築され、僕はここ数年の上海で最高の「アート空間を彷徨う」感覚を体験しました。イベントは“夜遊び感”もたっぷりで、ペリエ ジュエのシャンパンが振る舞われ、LEDライトが眩しい倉庫の中ではDJが轟音でプレイし、少女たちはピンクのポップコーンを待つ行列で自撮りを楽しんでいました。
そんな中で僕が注目したのは、オープニング展示に選ばれた写真家の一人、フェン・リー(馮立)の「White Nights in Wonderland/白夜幻境」です。都市の中に存在する超現実的で奇妙な瞬間、そのディテールを独自の感覚で表現する彼は、特に都市の夜をこよなく愛し、フラッシュを使った作風で国際的にも知名度を高めています。
かつて四川省成都の公的機関の宣伝部で写真を撮っていたフェン・リーは、あるとき、都市の日常の多様性に気づいたと言います。「奇妙で独特な景観に満ちた都市の生活に、表現の無限の可能性を感じた」「フラッシュが光りシャッターを押す瞬間、それは自分にとって寓話のようなもの」と彼は語ります。近距離での撮影、縦位置の画像、フラッシュがもたらす強い光。まるで街角を曲がった先で誰かと突然出くわすような予期せぬ出来事を、彼は生き生きと不思議な感性で写し出すのです。
彼はほとんどの時間を出身地である成都で過ごしていますが、もっとも多く撮影をしている場所は上海。初めて上海を訪れたとき、外灘に向かって湾曲する高架橋を見て、目の前に広がる都市の歴史、その光と影に、この都市に無限の可能性を感じたと言います。現在、その高架橋は外灘の再開発でなくなってしまいましたが、彼は今も変わらず「魔都上海」の魅力を捉え続けています。
「街は巨大な舞台。面白い人はどこにいても面白い。そしてカメラを持っている人物が面白いかどうかが前提条件だ」と言う彼は、2021年、パリでも展示を行っています。その時、地元メディアは「要注意、フェン・リーがパリに来た!」という見出しで、彼の撮ったパリを掲載。その風景や人物の写真はいずれも彼ならではの作品で、友人たちは口々に「なんで君が来ると、こんな変わった人たちがパリに現れるんだ?」と言ったそうです。
その3年後の今年6月、彼は約1か月間東京に滞在して多くの写真を撮影。『Feng Li /Tokyo』という写真集を完成させました。これは1970年代に北島敬三が発表した写真集「写真特急便 東京」に少し趣が似ています。日本の人々に、この中国の写真家が捉えた今の東京を、ぜひ見てもらいたいと思います。
今年も街が大にぎわいだったハロウィンの日。若者に人気の上海のナイトクラブ「System」では、フェン・リーのカメラのフラッシュが絶え間なく光っていました。
Feng Li 馮立
1971年成都生まれ。成都の公的機関の宣伝部門の写真家としてキャリアをスタート。2005年出版の写真集『White Nights 白夜』をきっかけに、独自の観察力と個性的なスタイルで日常における非日常を撮り始める。2017年にJimeiⅹArles Discovery Awardを受賞。翌年フランスのアルル国際写真祭に参加。「White Nights 白夜」シリーズの作品は国内外で注目され、英国の『THE WHITE REVIEW』、アメリカの『Aperture』『The New York Times』、日本の『IMA』、スイスの『ELSE』、ドイツ『Die Zeit』、フランスの『Libération』など、多くのメディアで取り上げられている。近年はファッション界でも活躍。2020年にはルイ・ヴィトンの「FASHION EYE」シリーズで写真集を出版。