Rocky’s report from Shanghai
2023.06.26
Vol.36 デザイン上海が3年ぶりに開催! アート&デザインの新しい波とは
文/令狐磊 Rocky Liang
翻訳/サウザー美帆
中国でもっとも大きな国際家具デザインフェア「デザイン上海(Design Shanghai)」が3年ぶりに開催。10年目を迎えた今年は、40以上の国と地域から600以上のブランドが出展。“Design for Wellbeing”をテーマに、国内外から100名以上の著名デザイナーが参加してイベントも多数開催されました。
さまざまなブランドのブースがある中で、著名な建築デザイナーのチー・ウィン・ロー(卢志榮Chi Wing Lo)「插曲」は、本展のハイライトのひとつ。音楽が流れると、洞窟のような空間の灯りが精霊の影のように動き始めます。東西のデザインに精通する彼の作品は、豊かな人生経験から生まれた精神性を感じさせます。これはスマートホームブランドのMoorgenと高級オーダーメイド木工ブランドのMULIとのコラボレーション作品でもあり、ハイテク時代ならではの東洋的な瞑想空間となっていました。
フランク・チョウ(周宸宸)のキュレーションによる若手プロダクトデザイナーのためのプラットフォーム「TALENTS」は、ベストプロダクトデザイン賞、ベストアーティスティックデザイン賞、ベストコンセプトデザイン賞を設け、この3つの分野の発展を積極的に促しています。
この部門は出展料を大幅に引き下げるなど、若手デザイナーへの支援にも貢献しています。その中で目を引いたのは、貴州省のドン族のデザインユニットRESTUDIOによる、花器とドン族の伝統的な服の生地を組み合わせた作品。布でできた花器はアウトドアでも使え、また侘び寂びを感じさせる風情で、民藝の未来を見るような気持ちになりました。
チェン・ミン(陳旻)のキュレーションによる「Neooold新開物」セクションも見どころがありました。オランダ在住経験があり、ロエベクラフトプライズのファイナリストにも選出された彼は、デザイナーとともに伝統的な工芸を革新的に使用した、新しいアートの概念を持った空間をつくりあげました。その中にあった漆芸から生まれたポップアート風の「新開物宅急便 Neooold Express」は、先駆的でありながら伝統への尊敬も感じられました。このような思考は、今の中国では特に重んじられています。
家具や家庭用品が機能的なデザインからアート性のあるフォルムへと移行していく中で、「現在の上海にはアートやデザインのコレクターのコミュニティが急速に広がっていて、そのほとんどが1980年代生まれ。デザインギャラリーの需要も急増しています」と語ってくれたのは、スカンジナビアモダンの家具を販売するコラ(Cola)さんです。
デザインフェア開催と並行して、市内にはいくつかのデザインギャラリーもオープン。コラさんは、彼の新しいギャラリー「Gallery101 Shanghai」が河浜大楼(The Embankment Building)内にオープンすると教えてくれました。1930年代に建てられたこの歴史的建造物はかつて「極東のファーストアパート」と呼ばれ、当時の上海では最大の住居用ビル。ハリウッドのスタジオの中国支社が入居し、多くの外国人が住んでいました。 それから約100年後、この建物がホームデザインのギャラリーとして選ばれるようになるとは誰も思っていなかったでしょう。
キュレーターのジャン・チー(張琪)が手がけた「Gallery Sohe」は、黄浦区の外灘にいち早く進出したコレクタブルデザインのアートギャラリー。蒐集家としても先駆的存在の彼が構築した近・現代美術のコレクションが見られます。
外灘の福州路に近々オープンする「Maison Wave」の創始者は90年代生まれ。オープニング展示は「住まいの機械:ル・コルビュジエと20世紀のクラシックデザイン」。近代建築のパイオニアと現代の中国の若者が、どのように交錯しているのか、気になるところです。
1930年代に急速な都市開発が行われた上海には、欧米の建築家による建物が数多く残されています。その後、あるものは工場として、あるものは密集住宅として使われ、約1世紀の時を経て、今また生まれ変わっています。新しい時代のデザイナーやキュレーターたちは、かつてヨーロッパで生まれ進化を遂げた現代のアートやデザインを上海に呼び戻そうとしていて、それはちょっとした時間の魔法をかけているかのようにも見えます。時間と空間が形成するこの不思議な感覚の中に「East meets West」の美があり、それこそがデザイン都市上海の魅力にもなっているのです。